男性育休取得率が4割超え 「イクメン」から「トモイク」の時代へ【小崎教授インタビュー】

2025年09月30日(火曜日)

男性育休取得率が4割超え 「イクメン」から「トモイク」の時代へ【小崎教授インタビュー】

令和6年度、男性の育児休業(育休)取得率が40.5%に達し、初めて4割を突破しました。20年前にはわずか0.5%だった数字が、法整備や意識変化に後押しされて飛躍的に伸び、日本社会は転換点を迎えています。

男性の育休について詳しい大阪教育大学の小崎恭弘教授は、「男性が育休を取ることは父親の幸福感を高め、母親や子どもにも良い影響を与え、さらに企業や社会へ広がる」と指摘。社会全体で子育てを支える重要性を訴えます。

小崎教授は兵庫県西宮市初の男性保育士として保育所などに12年間勤務し、3人の息子それぞれで育休を取得した元祖イクメン世代。「取るだけ育休」や「男性産後うつ」など、新たな課題についても伺いました。

取材・執筆 コハツWEB取材班

男性の育休取得率「40%突破」は社会の転換点

──男性の育休取得率が急増し、厚生労働省の令和6年度の調査(※1)では、育休取得率が40.5%と初めて4割を超えました。男性育休に携わってこられた小崎恭弘先生の率直なご意見をお聞かせください。

まず「すごい」というのが第一印象です。これまで国は30%を目標に掲げてきましたが、なかなか届かなかった。令和5年度にようやく30%を超え、さらに令和6年度で一気に40%台まで伸びたのは、国や企業の努力の成果だと思います。

男性の育休取得率「40%突破」は社会の転換点

「30%」という数値は、1つの転換点だと言われます。女性議員の割合やマイノリティなどの割合においても、30%を超えると社会の構造が変わっていく傾向がある。

育休取得も同じで、令和5年度の30%突破は大きな意味を持ちます。さらに令和6年度に40%に到達したことは、社会が大きく変化していることの表れではないでしょうか。

「イクメン」の終焉と残された課題

──男性の育休取得率が上がるなかで、新たに見えてきた課題はありますか。

育児に対する男性の意識は確実に変わってきていますし、企業側の意識も変わってきています。育児・介護休業法では、従業員が300人を超える規模の企業は、男性の育休取得率などの公表が義務付けられているからです。

ただし実際には、企業文化や職場の事情によって取得は短期間にとどまることが多い。

本来の目的である育児や家族との時間ではなく、数値を上げるためだけに取得させられる事例があるのです。

「イクメン」の終焉と残された課題

先ほど話したように、一定規模以上の企業は公表が義務付けられているので、なかには「1日でいいから休んでくれない?」と人事担当者に言われたからとりあえずちょっと休む、というようなケースもあります。

当然母親からすると、「1日だけの育休で何がわかる?」「1週間の育休で育児がわかったような顔をするな」と不満が出るわけです。

こうした不満から「取るだけ育休」「なんちゃって育休」と揶揄されることもあります。それだけでなく、数値上の育休と実際の育休に乖離があると、制度の形骸化につながってしまいます。

一方で、育休を積極的に推進する企業が「男性育休100%」を打ち出し、ブランドイメージを高める動きも出てきました。それ自体は望ましいことです。

制度と現実の間にギャップがある事実は解決すべき課題ですが、確実に前進していると言えます。

制度と現実の間にギャップがある事実は解決すべき課題ですが、確実に前進していると言えます。

男性の育休取得率が上がるなかで見えてきたもう一つの課題は「男性の産後うつ」です。実際に女性と同程度の割合で、妻の産後にうつ傾向を示す男性がいます。

しかし「どうして産んでいない男性が産後うつになるのか?」という偏見が強く、厚生労働省などが啓発をおこなってはいるものの、まだまだ社会には十分理解されていません。そういった人たちがいることを理解し、支えていける社会になっていく必要があります。

さらに、育休を取れない男性が「ダメ父」と見なされてしまうリスクもあります。家庭や職場の事情で取得できない人を排除しないことも大事です。

──厚生労働省は今年7月、男性の育児参加を促す「イクメンプロジェクト」の後継事業として、脱ワンオペ育児を目指す「共育(トモイク)プロジェクト」を打ち出しました(※2)。この動きをどう見ていますか。

「イクメン」という言葉が終焉を迎えたことを象徴する動きです。

そもそも「イクメン」という言葉が出てきたのは2010年前後で、父親が育児をすること自体がまだ珍しかった時代でした。当時は「父親が子育てを担う」という概念を社会に広める役割を果たし、大きな意味を持ったと思います。

しかし男性の育休取得率が3割を超えた頃から、もう「イクメン」と呼ぶほど、育児をする男性の存在が特別な存在ではなくなった。

つまり、「普通に子育てする父親」の存在が当たり前になったからこそ、国の「イクメンプロジェクト」は終了したと見るのが適切でしょう。

「普通に子育てする父親」の存在が当たり前になったからこそ、国の「イクメンプロジェクト」は終了したと見るのが適切でしょう。

今は「共に育てる=トモイク」という考え方に移りつつあります。ワンオペでなく、母親と父親だけでなく、社会全体で子どもを育てていく。その視点に立ち返ることが、これからの育児や家庭のあり方に必要とされています。

育休は成人男性の「発達の機会」として捉えて

──子どもの発達科学研究所(『コハツWEB』の母体)のテーマでもある「発達」の視点から伺います。男性にとって育休は、どのような意味をもたらしますか。

育休は父親にとって、まさに人として発達する良い機会になると思います。

発達心理学では従来0〜18歳の成長に焦点が当たってきましたが、今はライフスパン、生涯発達の視点が重視されています。大人もまた人生の節々で成長し続ける存在です。

長期の育休は「人生の棚卸し」の機会となり、働き方や生き方を見直す契機になる。父親が育児に関わることは、子どもの発達を支えるだけでなく、父親自身の新しい発達段階を切り開く営みでもあるといえます。

私は「父親の育児は5人を幸せにする」とよく話しています。母親、子ども、父親本人、企業、そして社会です。

母親の負担が軽くなり、子どもは父親との関わりから多様な刺激を得る。そして父親自身も、これまでの経済合理性中心の生き方から離れ、非効率な子育てを通じて柔軟性や共感性を育んでいきます。

孤立しがちな成人男性に仲間をつくる機会を与え、孤独から解放するきっかけにもなるのです。

Z世代がつくる新しい日本の子育てのカタチ

──これから育児を担うZ世代の意識は、ミドル世代以上と比べてどう変わるでしょうか。

これから親になっていくZ世代は、子どもの頃から男女平等やジェンダー意識の教育を受けてきた世代です。育児は「分担して当たり前」と考える人が多い。

専業主婦という選択が難しくなり、共働きが標準になっているのもZ世代が生きる社会の特徴です。実際、女性の就業率は右肩上がりで8割に達していますし、共働き世帯の割合も8割に迫る勢いです(※3)。

こうした社会の変化が、若い世代の価値観に直結しています。だからこそ、男性の育休はもっと当たり前の感覚になっていくでしょう。答えのない時代を生きる若い世代が、自分たちの育休をどうカスタマイズして中身のあるものにしていくかが大事です。

父親の育休は母親や子どものためと思われがちですが、その前に「父親本人の幸せのため」であることを忘れないでいただきたい。父親として子育てに関わることを尊重する。こういう価値観が社会全体に求められています。

小崎 恭弘(こざき やすひろ)

小崎 恭弘
大阪教育大学 教育学部教授。大阪教育大学附属天王寺小学校の元校長。父親の育児を支援する「NPO法人ファザーリング・ジャパン」顧問。兵庫県西宮市初の男性保育士として、12年間保育所などに勤務した経験を持つ。専門は保育学や児童福祉、父親支援など。3人の男児の父として育児休暇を取得した経験から、父親育児支援について研究を始める。テレビや新聞、雑誌などさまざまなメディアで活躍中。これまでに2000回の講演実績を持つ。

参考文献

※1 厚生労働省 「令和6年度雇用均等基本調査」の結果概要 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r06/06.pdf

※2 厚生労働省「共育プロジェクト」https://tomoiku.mhlw.go.jp/

※3 こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ(令和7年4月1日)」https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/b0a8057b-34bf-4c20-84fb-ae592708ca9b/c853cacb/20250828_policies_hoiku_torimatome_r7_01.pdf

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