合理的配慮は、国際的な人権保障の流れの中で位置づけられ、日本でもその流れを受けて法制度の整備が進められてきました。
教育現場では、2016年から主に公立学校において法的責務のもとで合理的配慮が求められており、その後の法改正によって2024年からは、これまで努力義務にとどまっていた私立学校や塾、民間の支援施設などの場においても合理的配慮が義務化されています。
本記事では、そうした法的枠組みの変遷をたどるとともに、合理的配慮を教育現場でどのように判断し、実践していくのかについても考えます。解説は子どもの発達科学研究所 主任研究員の大須賀優子です。
合理的配慮の国際的基盤
「授業中に聞き取れなかったことを、先生が板書してくれるだけでよくわかるようになった」
こうした、障害などに起因して生じる学習や学校生活における困難に応じて行われる変更や調整が、合理的配慮です。
合理的配慮は、求めがあれば無条件に提供されるわけではありません。一定の条件のもとで個別に判断されます。そして、この「条件」を理解するためには、合理的配慮が生まれた背景や、制度として整えられてきた経緯への理解が必要です。
合理的配慮という考え方の国際的な基盤となったのが、2006年に国連で採択された「障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)」です。この条約は、教育・労働・社会保障など幅広い分野で障害者の人権を保障することを締約国に求め、「合理的配慮の不提供は差別である」と明確に位置づけた条約です。
これは、障害のある子どもや大人が世界中で直面してきた困難を、国際社会全体で解決していこうという決意の表れでした。
日本国内における法制度整備
世界的な動きを受けて、日本においても2013年に「障害者差別解消法」が制定され、2016年に施行されました。しかし当初は合理的配慮の提供が義務づけられたのは行政機関や公的機関のみ。民間事業者については努力義務にとどまっていました。
このため、民間事業者に含まれる私立学校では合理的配慮は「できる範囲で行う」と扱われ、対応の判断は学校や先生によって分かれる状況が発生していたのです。
しかし2024年4月、対応に温度差が生じる状況が変わりました。
改正法の施行により、すべての民間事業者に合理的配慮の提供が義務づけられ、私立学校も例外ではなくなったのです。
「できれば」から「しなければならない」という法的責務へと位置付けが変わったことは、教育現場にとっても大きな転換点となりました。
教育現場における合理的配慮の判断と対話の重要性
教育現場で合理的配慮を実践するにあたり、「どの子どもに、どこまで対応すべきか」という判断は避けて通れません。ここでは、具体的な事例を交えながら、その考え方を見ていきます。
最初に強調したいのは、合理的配慮は無制限に求められるものではないことです。文部科学省の通知では、不特定多数に対する事前的改善措置として学校における環境整備を前提とし、その上で個々の子どもの状況に応じて合理的配慮を検討するという考え方が示されています。
また、実施にあたっては事業者等の事業の目的・内容・機能に照らし、次の3つを満たす必要があるとしています。
・必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること。
・障害のない人との比較において、同等の機会の提供を受けるためのものであること。
学びや活動に参加する機会を等しく保障するという考え方です。
・事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと。
さらには「過重な負担にならない範囲で」という条件も設けられており、どのように対応するかは、本人や保護者、学校が対話と調整を繰り返すことが好ましいとされています。
事例から考える、合理的配慮と話し合い
教育現場では、合理的配慮をどのように具体化するかについて判断に迷う場面が少なくありません。特に、「どこまでが合理的な対応か」の見極めは簡単ではありません。実際の事例を通して考えてみましょう。
たとえば、以下の場合はどうでしょう。
・聴覚障害のある児童に対して、教師が発言内容を板書で補足したり、ICT機器で音声を文字化する支援を提供したりする。
・発達障害のある生徒には、試験時間を延長したり、静かな別室で受験できる環境を整える。
・車いすを利用する生徒には、スロープや昇降機を設置して校内移動を可能にする。
教育現場でいざ合理的配慮を実践する際には、これらが「過重な負担」や「本質的な変更」に該当するかどうかの判断を下す必要があります。
ある学校では、視覚障害のある児童が「全ての教材を点字化してほしい」と希望しました。しかし、学校単独で全教科の点字化を実現するのは難しいのが実情です。
そこで、児童本人・保護者・学校・教育委員会が建設的に話し合い、まず主要教科から段階的に点字化を進め、補助的に音声読み上げソフトを導入するという方法で合意しました。
合理的配慮は個別に検討する
先の事例のように、本人や保護者から寄せられる希望の全てに対応できるわけではありません。ただし、そうした場合でも、対話を通じて現実的かつ合理的な解決策を導くことができます。
学習や学校生活において支援ニーズがある場面に目を向け、以下の点について本人、保護者、学校、教育委員会が対話を通じて共に話し合い、合意形成を図りましょう。
検討の内容:授業の進め方、学習環境、具体的な支援方法
考慮する点:発達段階や特性、学校全体の体制
なお、実際に実施するためには、保護者や本人との合意形成だけでなく、客観的なアセスメントに基づき検討し、決まったことは「個別の教育支援計画」へ明記することが必要です。
合理的配慮は、一度決めた内容を続けるわけではありません。子どもの成長や学習環境の変化に応じて、必要な支援を見直し、調整していくことが大切です。合理的配慮は、法律で義務化されたからこそ、透明性と継続性を伴って実行されなければなりません。
かつて「できる範囲で」とされていた支援は、今では「社会の責務」へと変わりました。合理的配慮は、善意や特別な優しさの問題ではなく、人権を守るための法的な仕組みです。
教育現場はその意義を踏まえ、一人ひとりの子どもが、よりよく発達する道筋を健やかに歩んでいけるよう、日々の実践を積み重ねていく必要があります。
執筆者:大須賀 優子(おおすか ゆうこ)

- 公益社団法人 子どもの発達科学研究所 副所長・主任研究員
- 博士(小児発達学)
- 所属学会:日本児童青年精神医学会、日本教育心理学会
参考文献
- 子どもの育ちとマイノリティ当事者の暮らし、熊谷晋一郎、学術の動向、 2021
- 「合理的配慮 対話を開く、対話が拓く」川島 聡、飯野 由里子、西倉 実季、星加 良司、2016
- 文部科学省、共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)、2012
- 文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針について(通知)









