育児がうまくいく、「甘やかす」と「褒める」の科学

2025年06月29日(日曜日)

褒める育児に関して多くの情報があふれる昨今。しかし実践する過程で、「うちの子はこの褒め方でよいのか? 効果がないのではないか?」と悩むこともあるのではないでしょうか?

そこで本記事では、科学的な視点に基づいて、子どもの成長発達支援に向けた「褒める」時の考え方と実践ポイントを、混同されやすい「甘やかす」との比較を交えて紹介します。

執筆:コハツWEB編集部

褒めるとは、自己効力感の獲得に向けた「望ましい行動」の強化

「褒める」行為は望ましい行動を増やしていく役割を担います。これは、応用行動分析学で「強化」と呼ばれるプロセスにあたります。

強化とは、ある行動の直後に良いことが起きると、同じ状況でその行動が再び起こりやすくなるという学習の原理です。そして「褒められる」ことは、子どもにとって非常に強力な「良いこと」の一つなのです。

たとえば食事の場面で、子どもの「お箸の使い方」がいつもより良かったとします。そこで「上手にお箸が使えているね」と具体的に行動を褒めます。すると子どもは「お箸を上手に使うと、褒められる」と学習し、その行動を繰り返そうとします。

この「できた」という成功体験の積み重ねが、「自分はできる」「自分は役に立つ存在だ」という感覚、すなわち自己肯定感の重要な要素である「自己効力感」を育んでいくのです。

効果的な褒め方、3つのコツ

このように、「褒める」ときには、褒める側が「どの行動を伸ばしたいか」という明確な意図を持つことが重要です。そのうえで、褒める効果を高めるためのコツを3つご紹介します。

1.即時性(行動のすぐ後に)

行動と褒められるまでに時間が空くと、子どもは何に対して褒められたのかを体感しにくくなります。望ましい行動を見つけたら、できるだけその場ですぐに褒めることが大切です。

2.具体性(ピンポイントで)

「えらいね」「すごいね」といった漠然とした言葉は、使いやすい一方で何が良かったのかが伝わりません。「お友達に優しく言えたね」「クレヨンの色の選び方が素敵だね」など、具体的な言葉で伝えることで、子どもはどの行動に価値があるのかを明確に理解し、再現しやすくなります。

3.プロセス重視(結果だけでなく過程を)

「テストで100点を取った」という結果だけでなく、そこに至るまでの努力の過程にこそ、目を向ける価値があります。「毎日コツコツ勉強していたのを知っているよ」「難しい問題も、諦めずに考えていたのがすごい」といったように、プロセスを褒めましょう。

甘やかすとは、自己受容感の土壌となる「心の安全基地」づくり

次に「甘やかす」重要性を解説します。

「甘やかす」と聞くと、「子どもの言いなりになる」といったネガティブなイメージが浮かぶかもしれません。しかし発達心理学では、ここで言う「甘えさせる」という行為が、子どもの成長に不可欠な役割を果たすことがわかっています。

それが「心の安全基地」と言われる、子どもの心に絶対的な安心感を築く役割です。この概念は、心理学者カール・ロジャーズが提唱した「無条件の肯定的関心」という言葉で説明できます。

テストで100点を取ったから、お行儀が良かったから、といった条件付きではなく、「あなたはそのままで、かけがえのない大切な存在だ」というメッセージを伝え続けること。これにより、子どもの心には「何があっても自分には帰る場所がある」という絶対的な安心感が根付きます。

この「心の安全基地」の重要性は、心理学者ジョン・ボウルビィが提唱する「愛着理論」の中心的な概念でもあります。これは、人は心に絶対的な安心があって初めて、外の世界へ出て新しいことに挑戦し、他者と関わり、失敗を恐れず困難に立ち向かう力を育むことができる、という考え方です。

たとえば、子どもが転んで泣いている場面。

「いつまでも泣かないの!」と行動を正そうとするのではなく、「うわあ、痛かったね!びっくりしたね!」と、行動の原因となった本人の感情を受け止め、受容する。この行為こそが、心の安全基地を強固にする「甘やかし」です。

このように、子どもが危機を感じた時に親が安全基地となることで、子どもは「守られている」「受け入れられている」という安心感と信頼感を育みます。

この関わりを繰り返すことで、子どもには、ありのままの自分を肯定できる「自己受容感」が育ちます。この自己受容感こそ、自己肯定感を構成するもうひとつの必須要素なのです。

事例でみる「甘やかす」と「褒める」の使い分け

育児の中で、「褒めているのにうまくいかない」と感じるときは、褒めることと甘やかすこととの使い分けに原因があるのかもしれません。

この二つを使う考え方の順番は「まず甘えさせ、次に行動を見て、できていたら褒める」が基本です。

■事例1:子どもが不安を感じて泣いている

この時、子どもはネガティブな感情の中にいて、心は「安全基地」を求めています。

  • NG対応(先に行動をみる):「静かにできたら褒めてあげる」「泣き止んだらえらい」と、「褒める」を交換条件に行動をコントロールしようとする。これでは、子どもは「不安な気持ちのままでは認めてもらえない」と感じ、感情を押し殺すようになりかねません。
  • OK対応(先に感情を受容する):まず「嫌だったんだね」と感情を受け止め、静かな場所に移動するなどして、気持ちが落ち着くまで寄り添います(甘えさせる)。落ち着きを取り戻せたら、「気持ちを言葉で教えてくれてありがとう」と、その努力を褒めます。

感情への全面的な受容が必要な場面では、まず安全基地としての役割を果たし、子どもが落ち着いてから望ましい行動を「褒めて強化する」というステップが有効です。

■事例2:友達とのおもちゃの取り合いで手が出てしまった

この場面は、以下のステップで対応します。

Step1 気持ちを受け止める(甘えさせる)
両者を物理的に引き離し、安全を確保します。「おもちゃで遊びたかったんだね。取られそうになって嫌だったんだね」と、行動の背景にある気持ちを代弁し、受け止めます。この時、「手を出した」という行動自体を肯定しているわけではない、という点が重要です。

Step2 望ましい行動を伝える
子どもの気持ちが落ち着いたら、「でも、叩くとお友達も痛いし悲しい気持ちになるよ。『貸して』って言葉で言ってみようか」と、望ましい代替行動を具体的に伝えます。

Step3 できたことを褒める
拙くても「ごめんね」と頭を下げられたり、言葉で伝えようとしたりしたら、「勇気を出して謝れたね。すごくかっこいいよ」とその行動を具体的に褒めます。

このケースでは、「手を出した」という行動を無条件に受け入れてしまうと、社会的なルールを学ぶ機会を失います。気持ちは受け止めつつ、伝えるべきルールは伝え、望ましい行動を褒めていくことが大切です。

「自己受容感」と「自己効力感」で育む自己肯定感

本記事では「甘やかす」と「褒める」の役割を解説しました。この二つの働きかけは、子どもの自己肯定感を育む上で重要な役割を担っています。

  • 「甘えさせる(無条件に受容する)」 ありのままの自分で大丈夫という自己受容感を育みます。
  • 「褒める(望ましい行動を強化する)」 自分は「できる」という自己効力感を育みます。

自己肯定感は多面的で複雑な概念であり、様々な定義がなされていますが、自己受容感と自己効力感が重要な要素であることには変わりありません。「褒めて育てる」実践において、この二つの使い方がヒントとなれば幸いです。

 

参考文献

  • キャロル・S・ドゥエック (著), 今西 康裕 (翻訳) (2016). 『マインドセット:「やればできる!」の研究』. 草思社.
  • 中田洋二郎 (2016). 『イラストでわかる ABA(応用行動分析学) ペアレント・トレーニング』. 合同出版.
  • 高垣忠一郎 (1999). 『自己肯定感の育て方』. 木子出版.

監修:青山 智士(あおやま ともひと)

青山 智士
  • 公益社団法人 子どもの発達科学研究所 研究員
  • 浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 特任研究員
  • 公認心理師
LOGIN

ログイン

会員の方はこちらからログインしてください。

CHANNEL