赤ちゃんの目に世界はどう映る? 視覚の発達が担う「関係を結ぶ力」

2025年10月09日(木曜日)

赤ちゃんの目に世界はどう映る? 視覚の発達が担う「関係を結ぶ力」

赤ちゃんの澄んだ瞳には、どのような世界が映っているのでしょうか。生まれたばかりの赤ちゃんの視力は弱く、まだぼんやりとしか見えていません。しかし誕生後は目覚ましい発達を遂げ、「見る力」は体の動きやさまざまな関わりとも深く結びついていきます。

視覚発達の重要な時期に、家庭や保育現場ではどのような配慮が必要でしょうか。子どもの発達科学研究所 副主任研究員の津久井伸明が解説します。

赤ちゃんの「見る」は世界との出会い

赤ちゃんが目を開けたとき、どのような世界が見えているのでしょうか。生まれたばかりの赤ちゃんの視力は大人と比べてずっと弱いことで知られています。

したがって、はっきりと見える範囲はごく限られているのです。それでも赤ちゃんは、視覚を通して少しずつ外の世界に関心を広げていきます。

視覚の発達は、物を見る力を育てるだけではありません。周囲の人や物と関わる力、さらには自分の体を動かす力の発達にも密接に関係しています(※1)。

新生児の視力は「0.01」 生後半年までの視覚発達のステップ

新生児の視力はおよそ0.01〜0.02程度とされており、明暗の差や輪郭のはっきりしたものに反応を示します。

人の顔をじっと見つめるようになるのは、生後1カ月ごろから。2〜3カ月頃には色の違いや動くものに興味を示すようになります。

さらに4〜6カ月を過ぎると、遠近感や奥行きをある程度認識できるようになり、視力も生まれたときの約10倍である0.1前後まで発達します。

このように赤ちゃんの視覚は、環境とのかかわりを通して目覚ましく発達していきます。

ぼんやりとした世界から遠近感などを認識できる段階へ。見たものを記憶し、注意を向ける力が育つことで、周囲の世界と「関係を結ぶ力」も同時に育っていくのです(※2)。

「見る」が動く力を育てる 視覚と運動のつながり

視覚の発達は、運動の発達と密接に関係しています。赤ちゃんは見たいものに視線を向け、それに手を伸ばすことで、「ものを見る→手を動かす→ものに触れる」という一連の動作を学びます。

目と手の協応(コーディネーション)を育てるこのプロセスは、後の行動発達にとって極めて重要です(※3)。

たとえば、動くおもちゃを目で追いかけながら手を伸ばすという経験は、視覚的な注意力や追視能力、手の巧緻(こうち)性の発達につながります。

つまり、赤ちゃんにとって「見えること」は、「動くこと」や「関わること」の入り口なのです。

「長時間画面を見せる」はNG 科学的に望ましい対応とは?

このように赤ちゃんの運動の発達に大きく影響する「視覚」ですが、忙しい日々のなかで、視覚の発達によくない対応をしてしまうケースがあります。

場合によっては、視覚的な刺激や体験を単調にしてしまい、視覚と運動の発達の機会を減らす原因となる可能性も。具体例は次の通りです。

  • 赤ちゃんをいつも同じ方向で寝かせてしまう
  • 部屋に変化の少ない環境を保ちすぎてしまう
  • 長時間テレビやスマートフォンを見せてしまう

これらのなかには、思わずドキッとしてしまう事例も含まれているのではないでしょうか。
特に身近なテレビやスマートフォンの過度な使用については気をつけたい点です。

スクリーンタイムが長時間に及ぶと、画面の光や音は受動的な刺激となり、自発的な探索や視線のコントロールを妨げてしまうことがあると、研究で明らかになっています(※4)。

では、科学的に望ましい対応とはどのようなものでしょうか。

赤ちゃんの視覚的な注意を引き出すには、表情のある顔や、音を出して動かせるおもちゃが効果的です。

保護者が赤ちゃんの目線に合わせておもちゃを動かしたり、声をかけながら一緒に見たりすることで、視覚と聴覚、運動の複合的な発達が促されます(※5)。

手が届く距離に「見たいもの」を置く

赤ちゃんが視線を向けた先に手を伸ばすことができるよう、興味を示したものはなるべく近くに置くことが大切です。手が届くことで、赤ちゃんは「見たものに触れる」という体験を繰り返し、視覚と身体の動きがつながっていきます(※6)。

そのためには赤ちゃんが自由に動いて視線を移し、気になったものに近づいていけるよう、過度に囲わないスペースづくりが大切です。

大人の目が届く範囲で、危なくない素材や安全なおもちゃを配置し、安心して探索できる空間を用意することで、赤ちゃんは「見て、動いて、確かめる」という学びの機会を得られます。

赤ちゃんの目線で世界を見る

赤ちゃんの視覚は、周囲との関わりのなかで育ちます。見たものに反応し、目で追い、手を伸ばす──。その一つひとつが、世界を知るためのかけがえのない一歩です。

私たち大人が、赤ちゃんの目線に寄り添い、「見て、動いて、確かめる」時間を支えていくこと。それが、赤ちゃんの心と体の健やかな発達につながっていきます。

執筆者:津久井 伸明(つくい のぶあき)

津久井 伸明
  • 公益社団法人 子どもの発達科学研究所 副主任研究員
  • 浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 特任研究員
  • 博士(小児発達学)

参考資料

※1 Graven, S. N., & Browne, J. V. (2008). Sensory Development in the Fetus, Neonate, and Infant: Introduction and Overview. Newborn and Infant Nursing Reviews, 8(4), 169–172.

※2 Morgan, J. E., et al. (2021). Infant visual development and eye movement control. Developmental Science, 24(3), e13068.

※3 Gibson, E. J. (1988). Exploratory behavior in the development of perceiving, acting, and the acquiring of knowledge. Annual Review of Psychology, 39, 1–41.

※4 Zemanosky, B. T., & Henry, M. J. (2020). Screen media exposure and visual attention in infancy. Infant Behavior and Development, 58, 101403.

※5 Nencheva, M. L., & Lew-Williams, C. (2022). Understanding why infant-directed speech supports learning: A dynamic-attending approach. Developmental Review, 66, 101038.

※6 Lobo, M. A., & Galloway, J. C. (2013). The onset of reaching significantly impacts how infants explore both objects and their bodies. Infant Behavior and Development, 36(1), 14–24.

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