寝返りやハイハイ、つかまり立ちなど、生まれて1年も経たないうちに赤ちゃんの運動はダイナミックに変化し、周囲もその成長に注目します。しかしその裏側では「感覚統合」という、大切な仕組みが静かに成長していることをご存じでしょうか。
赤ちゃんの成長を科学的な視点で捉えると、育児の面白さの発見につながります。感覚統合とは何か。赤ちゃんにとって望ましい環境とは。子どもの発達科学研究所 副主任研究員の津久井伸明が解説します。
寝返りやハイハイ…赤ちゃんの成長の背景にある脳の動き
赤ちゃんの成長のなかで、寝返りやハイハイ、つかまり立ちなどの運動の発達は目に見えやすく、わかりやすい変化です。
しかしその裏側では、「見る」「聞く」「ふれる」といった感覚が脳の中で統合され、動きを導く仕組みが育っていることを知っていますか。
この仕組みは「感覚統合」と呼ばれ、赤ちゃんの運動や情緒、学びの土台と深く関係しています(※1)。
人間は、いろいろな感覚情報を受け取って生活しています。触覚・聴覚・視覚・嗅覚・味覚に加え、「前庭感覚」と呼ばれるバランス感覚や、「固有感覚」と呼ばれる関節や筋肉の動きの感覚など、さまざまです。
感覚統合とは、これらの感覚を脳で整理し、意味づけ、必要な行動へとつなげる機能を指します。
たとえば、「赤ちゃんが転がるボールを見る→手を伸ばす→つかもうとする」という一連の動きは、視覚・運動・触覚・姿勢のバランス感覚など、複数の感覚が連動しています。感覚統合がうまく機能しているからこそ、スムーズな行動へと結びついているのです(※2)。
感覚と運動の統合を育む赤ちゃんの自由な動き
赤ちゃんが「動けるようになる」のは、単に筋肉が発達したからだけではありません。感覚統合により、自分の体の位置や動き、周囲との距離感などを感覚として感じ取り、適切なタイミングで動かす力も発達したからです。
これには、視覚と空間認知、固有感覚と動作調整、前庭感覚と姿勢制御といった、感覚と運動の統合が欠かせません(※3)。
赤ちゃんの自由な動きや探索活動は、感覚統合を育てる絶好の機会となります。
さまざまな場所をハイハイして移動する、手足をバタバタさせる、おもちゃに触れる、などの体験は、感覚のネットワークを強くし、運動の幅を広げる土台になるのです。
ベビーカーの長時間利用は注意 やってしまいがちなNG対応
では、こうした感覚統合を促すために、周りの大人たちはどのようなことを心がければよいでしょうか。やってしまいがちなNG対応には、次のような事例があります。
NG例
・「動きすぎると危ないから」と、赤ちゃんの動きを制限する
・ベビーチェアやベビーカーに長時間固定する
・音や光、触感の刺激が少ない環境で過ごさせる
これらの対応は、いずれも赤ちゃんが自分で感覚を使い、動いて確かめる機会を奪ってしまいます。
感覚統合を促すためには、適度な刺激と自発的な体験のバランスが大切なのです(※4)。
「五感+動き」の体験を増やす日常の工夫とは
では、育児や保育をするうえで、どのような対応が科学的に望ましいのでしょうか。
赤ちゃんにとって大切なのは、「五感+動き」の体験を増やすこと。
たとえば、赤ちゃんの気を引くためにおもちゃの音を鳴らしながら転がしてみる、手の届く範囲にいろんな素材のものを置く、床に寝かせて自由に体を動かせる時間を作る、といった日常的な工夫が感覚統合を育てます(※5)。
視覚、聴覚、触覚などを使いながら、自分で体を動かす機会を多く持つことが、大きな意味を持つのです。
また、バランス感覚や重力感覚を育むことも重要です。
たとえばうつ伏せ遊びや、少し成長するとブランコ遊びなどが最適。これらの遊びは、前庭感覚(バランス感覚)を育てる効果があります。
その他にも、腕で身体を支える、重たいものを持ち上げるといった体重を感じる遊びなどは、固有感覚を育みます。
これらの感覚が、姿勢保持やスムーズな動作の基礎となるのです。
感覚は育ちの道しるべ 赤ちゃんの「やってみたい」を大切に
赤ちゃんの自分から手を伸ばす、転がる、音のする方を見る、といった行動は、感覚統合の発達にとって非常に価値があります。そのため、自発性と感覚のつながりを育てるには、親が手伝いすぎず、赤ちゃんの「やってみたい」を見守る姿勢が重要です。
感覚は赤ちゃんが世界と関わるための「入り口」であり、感覚がうまく統合されることで、より自由で豊かな動きや学びが可能になります。
さらに、感覚の統合は身体機能の発達に寄与するだけでなく、知的能力や社会情動的スキル(感情のコントロール・他者との協働・目標の達成)を支え、さらに子どもが社会に自発的にかかわろうとする意欲を形成する基盤でもあります(※1,6,7)。
日常のなかで、見て、聞いて、ふれて、動いて――。
そうした積み重ねが、感覚の世界を広げ、運動や意欲の発達を支えていきます。赤ちゃんの感覚と動きがつながる瞬間を、ぜひ楽しんでください。
執筆者:津久井 伸明(つくい のぶあき)

- 公益社団法人 子どもの発達科学研究所 副主任研究員
- 浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター 特任研究員
- 修士(教育学)
- 博士(小児発達学)
- 公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士SV
- 特別支援教育士資格認定協会 養成委員会委員
- 所属学会:教育心理学会、LD学会、DCD学会、児童青年精神医学会、脳科学会
参考文献
※1 Ayres, A. J. (2005). Sensory Integration and the Child: Understanding Hidden Sensory Challenges. Western Psychological Services.
※2 Miller, L. J. (2007). Sensational Kids: Hope and Help for Children with Sensory Processing Disorder. Penguin.
※3 Alamia, A., & De Vignemont, F. (2018). Multisensory integration in peripersonal space: From perception to action. Frontiers in Psychology, 9, 1391.
※4 Williams, M. S., & Shellenberger, S. (1997). How Does Your Engine Run?: A Leader’s Guide to the Alert Program for Self-regulation. TherapyWorks, Inc.
※5 Bowlby, J. (1990). A Secure Base: Parent-Child Attachment and Healthy Human Development. Basic Books.
※6 Schaaf, R. C., Benevides, T. W., Kelly, D., & Mailloux-Maggio, Z. (2014). An intervention for sensory difficulties in children with autism: A randomized trial. Journal of Autism and Developmental Disorders, 44(7), 1493–1506.
※7 Schmitt, C. M., Hodge, M. A., Rossi, M., & Riquelme, I. (2022). Interoception: A multi-sensory foundation of participation? Frontiers in Psychology, 13, 896497.









