2024年9月16日、アクトシティ浜松コングレスセンターにて「日本教育心理学会第66回総会」が開催されました。コハツWEBを運営する公益社団法人 子どもの発達科学研究所(以下、研究所)は、プログラムにおいて企画シンポジウム「不登校に関する要因と必要な支援」を担当。
同研究所所長の和久田学が企画・司会・話題提供を務めました。貴重な臨床データとともに行われたディスカッションの全容をコハツWEB取材班が前編・後編の2本の記事に分けてご紹介します。前編ではシンポジウムの概要と主要な議論の方向性を、後編では各登壇者の講演内容を詳しくお届けします。
取材・執筆 コハツWEB取材班
シンポジウムの概要
タイトル:日本教育心理学会第66回総会企画シンポジウム
「不登校に関する要因と必要な支援
―文部科学省委託事業、不登校要因調査の結果からわかること」
開催日時:2024年9月16日(月・祝) 9時30分~11時30分
開催場所:アクトシティ浜松 コングレスセンター
提案者名:和久田学・公益社団法人 子どもの発達科学研究所所長・主席研究員
本シンポジウムでは、「文部科学省委託事業、不登校要因調査の結果からわかること」という副題の通り、研究所が文部科学省の委託を受け2022年に行った大規模な不登校要因調査の結果と、科学的な分析データを紹介。不登校のきっかけに対する「睡眠」「発達障害」「感覚過敏」という新たな視点からのアプローチに大きな注目が集まりました。
研究所は子育てや発達障害、いじめ予防など、子どもの心に関する科学的調査・分析と改善プログラムの研究・提供を行っています。
今回のシンポジウムでは、冒頭に当研究所の主席研究員でもある和久田学所長が、文科省の「COCOLOプラン」を受けて同調査を進めたこと、教育委員会や児童生徒、保護者、教員の協力のもとにデータ収集・解析したことなどを紹介。併せて次のように語りました。
「今回の調査では、不登校の子どもたちの多くがメンタルヘルスや生活リズムに問題を抱えていることがわかりました。これらの症状は不登校の予兆であり、早期の対応が必要です。また、特にいじめに関する認識のギャップが大きいこと、具体的には子どもや親のニーズと教師の認識との乖離が明らかになりました。
さらに、学業成績の不振が不登校と密接に関連していることもわかりました。不登校の予防には、子どもたち個々の問題に対処するより学校側の環境やシステムを見直す必要があることが改めて確認されたのです。こうした科学的知見に基づき、学校環境や子どもたちへの支援方法を提案することが今後の課題と考えます」(和久田所長)
講演とパネルディスカッションの概要
シンポジウムでは、研究所主任研究員で大阪大学大学院連合小児発達学研究科 准教授の西村倫子氏▽同 助教の平田郁子氏▽研究所客員研究員で明治学院大学心理学部心理学科准教授の足立匡基氏▽同 客員研究員で東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター講師の髙橋芳雄氏の4人の講演が行われました。
それぞれ専門家の立場から、西村氏は「不登校要因の類型化」、平田氏は「睡眠と不登校の関係」、足立氏は「発達障害との関係」、そして髙橋氏は「感覚過敏などと不登校の関係」について調査結果から導き出した研究結果を発表しました。各講演内容の詳細については、後編でお伝えいたします。
4人の講演に続き、「指定討論」として、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所理事の清重隆信氏が登壇。
清重氏はまず「今回の調査は短期間ながら大規模に行われ、各専門家の知見を生かし深い分析が行われた」と調査にあたった各関係者への謝辞を述べました。そのうえで「従来の不登校の子どもの支援に加え、新たな不登校の発生を防ぐ対策が重要。学校運営や学校経営の視点からも改善できる部分が多くあり、“学校風土”の改善が今後ますます求められます」と語りました。
パネルディスカッションでは、各演者から清重氏の「学校風土改善」の提言に賛同する意見が相次ぎました。
西村氏は「特に欧米では、もともとオンライン教育やホームスクーリングといった多様な教育機会が提供されており、学校に通えなくても他の形で学習を継続する仕組みが整っています。一方、日本は学校教育が中心のため、不登校がより大きな問題として扱われやすい傾向にあるように思います」と語り、日本の教育システムの変革を求めました。
平田氏も「思春期は生理学的変化や、生活の変化により、夜型の生活リズムになりがちで、朝起きるのが難しい。しかし、現在の学校生活は早朝からのスタートが一般的で、生徒の大きな負担になっている。睡眠不足も関係しているが、認識が十分とは言えない」と強調しました。
足立氏は「不登校でない児童生徒の方がいじめ関係のトラブルが多く、それは教師も認識している」という実態を報告。トラブルがあるうちは教師にも認知されていますが、問題は「認識把握されずにそのまま不登校になっている児童生徒」だと指摘しました。
髙橋氏は自身の中学時代、「詰め襟に感覚的な違和感を覚え、若干の苦痛があった」と語り、感覚の問題が「直接、不登校にはつながらなくても、学校の居心地にはかなり関与する。感覚フレンドリーな学校制度設計が必要ではないか」と提言しました。
これを受け、清重氏は「不登校の発生を防ぐ取り組みは、学校運営の円滑化や教員の負担軽減につながります。今後も引き続き調査・分析を続けるとともに、(その分析結果から)教師が十分な知識と専門性を持つことで子どもたちの問題を適切に把握し、効果的に支援できるようになるでしょう」と語り、教育現場のいっそうの改革を求めました。
当日の聴講者は現場の教員だけでなく大学の研究者や専門医らも多く、ほぼ満席。各登壇者に活発な質問が投げかけられ、満足度の高いシンポジウムとなりました。
本シンポジウムの紹介記事の後半では、下記のプログラムにおける各登壇者の講演内容の詳細をご紹介します。
プログラム
企画・司会・話題提供:和久田学(公益社団法人 子どもの発達科学研究所所長)
話題提供:
「不登校のきっかけ要因の類型化」
西村倫子(浜松医科大学子どものこころの発達研究センター※)
「睡眠の問題と不登校 睡眠の不規則性を中心に」
平田郁子(大阪大学大学院連合小児発達学研究科)
「不登校と発達障害に関する研究について」
足立匡基(明治学院大学心理学部心理学科准教授)
「感覚の問題と不登校」
髙橋芳雄(東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター)
「パネルディスカッション」
コーディネーター 和久田学(公益社団法人 子どもの発達科学研究所所長)
指定討論:清重隆信(国立特別支援教育総合研究所)
※学会発表時。現在は大阪大学大学院連合小児発達学研究科所属