2024年9月に開催された日本教育心理学会第66回総会の企画シンポジウムでは、公益社団法人 子どもの発達科学研究所(以下、研究所)によるシンポジウムで不登校に関する多様な要因と必要な支援について議論がなされました。前編・後編の2回に分けてシンポジウムの内容をご紹介します。
後半となる本記事では、登壇者による講演内容をご紹介。不登校のきっかけ要因の類型化から、睡眠問題、発達障害、感覚処理の問題まで、多角的な視点から紹介された不登校の実態と具体的な支援方法について、コハツWEB取材班がご紹介します。
取材・執筆 コハツWEB取材班
グループの特徴を把握し、異なるアプローチで不登校を予防|西村倫子/浜松医科大学子どものこころの発達研究センター特任講師(当時)
浜松医科大学子どものこころの発達研究センター特任講師(当時、2025年現在研究所主任研究員で大阪大学大学院連合小児発達学研究科准教授)の西村倫子氏は、「不登校のきっかけ要因の類型化」と題する講演を行いました。
西村氏はまず、不登校増加の現状について触れ、不登校の問題は世界的にも深刻で、コロナ禍以降、世界各国で増加していると説明しました。
では、なぜ不登校が起きるのか。一般的にその要因については、いじめ、学業問題、教職員との関係性、家庭状況、子ども自身の心身健康問題がありますが、特にコロナ禍以降は、学校行事や授業のオンライン増加や家庭の経済状況の悪化、友人関係の変化などが新たな要因となっています。
西村氏はこれを踏まえて、不登校には家庭環境や子どもの障害などに起因する静的要因と、いじめや人間関係、学業などの動的要因があり、特に動的要因に注目した介入が重要だと指摘。データに基づいて不登校の分類を行い、支援方法を見つける重要性を強調しました。
西村氏は、不登校のきっかけ要因を潜在クラス分析した結果、不登校には「対人関係や環境の問題がやや多いグループ」「学業問題が多いグループ」「全般的に問題が多いグループ」の3つに分けられることを報告。それぞれの特徴や背景について分析したところ、各グループでの成績や登校状況に違いがみられることもわかりました。
それらの分析から、西村氏は「不登校の支援にはグループごとに異なるアプローチが必要であり、学業問題が多いグループには個別最適な学習環境や教材、宿題(学習)に対する配慮、全般的な問題が多いグループには合理的配慮による学校生活の負担軽減が求められる」と結論づけました。
加えて、すべてのグループにおいて心身の不調や睡眠問題が共通の要因としてみられることから、生徒個々の心身の状態や生活状況の把握が不登校の早期発見に役立つ、と締めくくりました。
睡眠不足と睡眠リズムの乱れが不登校につながる|平田郁子/大阪大学大学院連合小児発達学研究科助教
大阪大学大学院連合小児発達学研究科助教の平田郁子氏は、小児科医の立場から「睡眠と不登校の関連性」について講演しました。
平田氏は、睡眠不足や不適切な睡眠により学業パフォーマンスの低下や問題行動が増加していることを説明。不登校と睡眠の関連性を示す報告は世界的にも増えており、特に、「朝、起きられない」ことは不登校の原因の上位として、国内外から多数の報告があったと述べました。
不登校と睡眠の関連要因は様々ありますが、今回の講演では特に睡眠不足と睡眠リズムについて焦点を当てました。平田氏が特に問題視しているのが、平日と週末で睡眠リズムが大きく異なる「ソーシャルジェットラグ」です。世界平均より睡眠時間が短いとされる日本の学童期の子どもたちには起こりやすいそうです。
睡眠の不規則性に注目して行われた調査では、規則的な睡眠をとる子どもたちのグループは学業や人間関係で良好な傾向にある一方、睡眠が不規則な子どもたちは様々な面で困難を抱えていることがわかりました。また、不登校傾向の子どもたちの睡眠は不規則な傾向があり、その結果、登校が不規則になった子どもたちが心身の負担を感じていることも明らかにしました。
心身の不調やゲーム・スマホ依存の子どもたちが不規則な睡眠をとる割合が高いことも報告されました。逆に、友人関係や学業(成績)がうまくいっていることが登校の要因として重要であることも指摘されました。
睡眠の規則性を保つことは不登校の予防や改善につながる可能性があり、早期の介入やサポートが望まれます。家庭はもちろん、学校や医療機関も連携し、子どもたちの健全な生活リズムを整える支援を行うことが必要と平田氏は強調しました。
発達障害は不登校の決定的要因ではない|足立匡基/明治学院大学心理学部心理学科准教授
「発達障害は不登校のイメージが強いかもしれませんが、実際は不登校でない児童生徒がずっと多いのです」。講演の冒頭、足立氏が語った言葉は意外なものでした。足立氏は発達障害と診断されたり、その疑いがあったりする1542人の児童生徒を対象に調査を行い、「発達障害特性の高さは確かに不登校の可能性を高めるリスク要因ではあるものの、発達障害イコール不登校といった決定的要因ではない」との結論を得たといいます。
足立氏は、発達障害があっても学校に通えている児童生徒と不登校児童生徒の違いを探るため、データを元に解析を行いました。その結果、不登校に関連しているのは「いじめ被害の多さ」「学業問題の多さ・少なさ」「学校活動への参加・不参加」「保護者や教職員との良好(あるいは険悪)な関係性」だということがわかりました。特にいじめ被害については、教師と児童生徒の認識に乖離がみられたそうです。
また、調査では発達障害の児童生徒が不登校にならないためには、学校風土やソーシャルキャピタル(地域や学校内での人びととのつながり)が重要な役割を果たすことも明らかになりました。足立氏は、学校風土やソーシャルキャピタルが高い環境にある児童生徒は、そうでない児童生徒に比べてメンタルヘルスの問題が少ない、と指摘。学校風土やソーシャルキャピタルの向上が不登校予防の大きな鍵となると語りました。
発達障害のある子どもたちに対しては、教師や保護者がいじめや孤立、メンタルヘルスなどの問題を認識し、早期に適切な支援を提供することで改善が期待されます。「そのための方法を今後さらに検討する必要がある」と足立氏は語り、講演を締めくくりました。
感覚過敏など感覚処理の問題が不登校に影響|髙橋芳雄/東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター講師
東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター講師の髙橋芳雄氏は「感覚の問題と不登校」というユニークなテーマで講演しました。
髙橋氏が着目したのは「感覚処理」。感覚刺激に対する脳の処理過程のことで、発達障害に限らず、一般の子どもにもみられる問題です。これが不登校の要因のひとつではないか、と髙橋氏は説明しました。
感覚処理の問題は大きく分けて以下の3つです。
1:感覚過敏性:特定の刺激に対して過剰に反応する状態
2:感覚低応答性:反応が鈍い状態(強い光や音に対して反応が鈍い、気づかないなど)
3:感覚探求性:特定の感覚刺激を求める(特定の触感を好んで触り続けたり、ものを口に入れることで感覚的な満足を得ようとするなど)
これらの特性は発達障害(ASD、ADHD、協調運動障害)と関連していることが多いとされていますが、個人差が大きく、発達障害のない児童生徒の5〜8%にも見られることがわかっています。また、不登校の要因として他の要因と併存していることが多く、不登校の発生に大きく関与すると考えられます。
不登校の児童生徒のうち、感覚処理に問題がある児童生徒は、学校での人間関係に問題を抱えていることが多い一方、学校や家庭以外のコミュニケーションでは問題が少ない傾向にもあるそうです。また、保護者やスクールカウンセラーが問題があると認識していても、肝心の教師が認識していないケースが多くみられることから、感覚処理の問題を教師に訴える子どもたちは少ない実態も示唆されました。
髙橋氏は、「感覚処理の問題が不登校に直接影響している場合は、環境を整える対策が有効です」と強調。保護者や教師、学校スタッフが児童生徒個別のニーズに応じた対応をとることが不可欠である、と締めくくりました。