不登校が「起きてから」では遅い COCOLOプランの科学的根拠と実践|子どもの発達科学研究所所長 和久田学 講演レポート

2026年01月23日(金曜日)

不登校が「起きてから」では遅い COCOLOプランの科学的根拠と実践|子どもの発達科学研究所所長 和久田学 講演レポート

2025年10月、日本教育心理学会第67回総会が浜松市で開催されました。コハツWEBを運営する公益社団法人 子どもの発達科学研究所(以下、同研究所)は企画シンポジウム「COCOLOプランの科学的検討|不登校支援の新たなデザインと実践におけるエビデンスとは」を担当。

歴史と実績ある「日本教育心理学会」で、子どもの発達科学研究所がリードするシンポジウムが今年も開催 歴史と実績ある「日本教育心理学会」で、子どもの発達科学研究所がリードするシンポジウムが今年も開催 2025年10月16日

本記事では、企画・司会・話題提供を担当した和久田学(同研究所 所長・主席研究員)の講演箇所を抜粋してレポートします。

※本レポートに記載の数値は、2025年10月の学会発表当時のデータに基づいています。

取材・執筆 コハツWEB取材班

不登校の背景にある「学校での体験」

2023年における全国の小中学校の不登校児童生徒数は約35万人に達し、過去最多を更新しました。

このような状況を受け同年、文部科学省は「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策」として「COCOLOプラン」を策定。

講演において和久田は「学校風土と不登校支援 COCOLOプランの科学的背景と意義」と題し、同プランを多角的に検討しました。

和久田はまず、「ACE(エース)が成人期の健康や社会的適応に影響する」ことを紹介。

ACEとは、虐待やネグレクト、家族内の暴力など、逆境的小児期体験(Adverse Childhood Experiences)を指します。幼少期にこうした経験を多くした人ほど、うつ病や依存症のリスクが上昇し、平均寿命が短くなるという研究結果も報告されています。

これを踏まえ、和久田の研究グループは家庭だけでなく、いじめや教員からの叱責といった学校における逆境的小児期体験に注目。「学校ACE®︎」と名付け研究を進めた結果、2023年には学校ACE®︎が成人期の引きこもりと関係していることがわかりました。

同研究の対象は成人期ですが、学校での傷つき体験が長期的な不適応の要因となる点を踏まえると、不登校との関連も十分に想像できます。

こうした結果を受けて和久田は、「学校のあり方を変えなければ、問題は解決しない」と訴えました。

予防の大切さを示すRTIモデル

和久田は続けて、不登校対策が事後対応になりがちな現状について指摘。

実際、文部科学省の不登校対策予算は毎年100億円規模に上りますが、その多くはスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、適応指導教室など、不登校になった後の支援に充てられています。

しかし、不登校を前提にした支援だけでは、不登校の予防、すなわち不登校の児童生徒を減らすことにはつながりません。

そこで重要となるのが、RTIモデル(Response to Intervention Model)です。

RTIモデルとは、支援を子どもの状態に応じた3つの層(Tier、ティア)で整理するモデルのこと。

RTIモデルの概要

RTIモデルの概要

まず、すべての子どもを対象とした「Tier1:予防的な支援(全体への働きかけ)」、続いてつまずきが見られる子どもへの「Tier2:初期対応(小集団・短期的支援)」、さらに個別で継続的な支援を必要とする子どもには「Tier3:個別支援・介入」の支援を行います。

現在の日本の教育現場では、支援はニーズが明確(Tier2)になってから行われることが大半です。欧米では、こうした対応は「子どもの失敗を待つモデル」と表現されることがあり、RTIモデルはそこからの脱却を目的としたモデルだと言えるでしょう。

和久田は、予防にあたるTier1が広がらない理由を「何も起きなかったという結果は成果として見えにくく、どの対応が効果を生んだのかが分かりにくいからです」と説明。

こうした現状を受け、科学的な視点を教育現場に取り入れ、データによって現状を可視化し、エビデンスに基づいて予防的に行動し、検証しながら改善を続ける必要性を訴えました。

子どもみんなプロジェクトからCOCOLOプランへ

支援の重点を「事後対応」から「予防」へ移すには、研究者も視点を変える必要があります。

予防への視点の転換を先立って形にした取り組みが、2015年に文部科学省の委託事業として、複数の大学と自治体の教育委員会が連携して取り組んだ「子どもみんなプロジェクト」です。

同プロジェクトでは、不登校にいじめや発達特性、孤立、暴力などの要因がどのように関係しているのかを、研究者と教育行政が一体となって科学的に明らかにしようとしました。

そして、そこで得られた知見は国の不登校対策の基盤となり、2023年3月の「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」へとつながったのです。

COCOLOプランの柱は次の3つ。

・不登校の児童生徒の学びの場を保障すること
・こころのSOSを見逃さないこと
・学校の風土を見える化すること

和久田は、これらがRTIモデルの3層と対応していると説明。具体的には、「学校の風土を見える化すること」は、すべての子どもを対象とした予防的な支援として第1層に位置づけられます。

「こころのSOSを見逃さないこと」は、困難の兆しを早期に捉え、支援につなげる第2層の対応に該当します。「不登校の児童生徒の学びの場を保障すること」は、個々の状況に応じた第3層の個別支援として整理されます。

これを踏まえて和久田は「問題が起きる前に支える仕組みこそが核心です」と強調しました。

加えて、予防に重きを置く支援を進めるにあたり、学校全体の雰囲気(学校風土)が大きく影響すると指摘。個別対応だけでなく、子どもが安心して過ごし、主体的に関われる学校風土づくりが欠かせないと力強く訴えました。

COCOLOプランの3つの柱と、RTIモデルの対応

COCOLOプランの3つの柱と、RTIモデルの対応

指定討論者コメント

登壇者の発表を受け、指定討論者である丸山克彦氏(岐阜県美濃加茂市副市長)は、文部科学省や東京都で教育行政に携わってきた経験から、「かつては行政内に、教育の現場に科学的データや研究成果を取り入れることに慎重な空気もあった」と振り返りました。

丸山克彦氏(岐阜県美濃加茂市副市長)

そのうえで、「今回のシンポジウムでは、研究者、行政、自治体、学校の先生方が同じ視点と課題意識を共有しながら議論している姿に、大きな手応えを感じた」とコメント。

また、国では学校の健康管理やメンタルヘルス体制の整備、2030年以降の新たな学習指導要領に向けて、不登校やギフテッド、日本語指導が必要な子どもなど多様な学びを支える柔軟な教育課程づくりが進められていると紹介しました。これらの動きの前提として、「子どもが今どのような状態にあるのかを、エビデンスと現場の感覚の両方から捉えることが欠かせない」と強調しました。

※学校ACEは、公益社団法人 子どもの発達科学研究所の登録商標です。

監修:和久田 学(わくた まなぶ)

和久田 学
  • 公益社団法人 子どもの発達科学研究所 所長・主席研究員
  • 大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学 連合小児発達学研究科 招聘教員
  • 博士(小児発達学)
  • 専門は発達心理学、教育学
  • 所属学会:特殊教育学会、LD学会、自閉症スペクトラム学会、子どもいじめ防止学会
浜松市出身。特別支援学校教諭として20年以上現場に勤務。その後、科学的根拠のある支援方法を大阪大学大学院の連合小児発達学研究科で学び、博士号(小児発達学)を取得。専門は子どものいじめや不登校など。教材開発や各種プログラム開発も行っている。科学的視点を取り入れたわかりやすい解説が好評で、新聞やテレビでのコメントも多数。著書に『科学的に考える子育て エビデンスに基づく10の真実』(緑書房)など。趣味は音楽(楽器演奏)。
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