2025年10月、日本教育心理学会第67回総会が浜松市で開催されました。
コハツWEBを運営する公益社団法人 子どもの発達科学研究所(以下、同研究所)は企画シンポジウム「COCOLOプランの科学的検討|不登校支援の新たなデザインと実践におけるエビデンスとは」を担当。
本記事では、話題提供を担当した足立匡基氏と西村倫子氏の講演箇所を抜粋してレポートします。
(取材・執筆 コハツWEB取材班)
子どもの「心のサイン」に気づく支援を|足立氏

足立匡基氏(明治学院大学 心理学部 准教授)
明治学院大学心理学部 准教授の足立匡基氏は、2023年に国内における小中学生の自殺者数が年間500人を超え、2019年の399人と比較して急増している現状を紹介。自殺率で見ると、G7諸国と比較しても高い水準です。
こうした状況を踏まえ、足立氏は自殺や不登校が深刻化してから支援するのではなく、「兆しの段階で気づき、子どもを守る仕組みが必要」だと強調。支援体制の重要性をデータで示しました。
◾️大規模調査が示す「支援の届かない子どもたち」の存在
では、支援体制の現状はどうなっているのでしょう。
足立氏は某市内で行われた、児童生徒の心の状態を継続的に把握する調査を紹介。
この調査では抑うつ尺度PHQ-Aを用いた分析によって、中等症の子どもで支援につながっていたのはわずか3.3%、重症でも2割に満たず、自殺念慮がある子どもの約8割が支援を受けていないことが明らかになったといいます。
不登校や多欠席・自傷行為といった行動は突然生じるのではなく、抑うつの高まりなどの前触れがあるケースが少なくありません。しかし、本人が苦しさを訴えていても、保護者や教師が気づきにくい傾向があるのです。
◾️学校風土とソーシャルキャピタルが示す、環境の力
また足立氏は、子ども個人の心身の状態だけでなく、子どもを取り巻く環境(学校や地域)にも着目。
先のデータなどを分析すると、学校によって子どもの抑うつ傾向に違いが見られたというのです。
背景には、学校や地域にあるつながりや支援の豊かさ(ソーシャルキャピタル)が関係していることがわかっています。
具体的には、両者の間には次のような関係が見られるといいます。
ソーシャルキャピタルが高い学校 → 抑うつ傾向が低い
ソーシャルキャピタルが低い学校 → 抑うつ傾向が高い
こうした結果を踏まえ、足立氏は 「個別アプローチだけでは限界があり、いじめや不登校の予防は学校風土への働きかけが必要だ」と指摘。和久田が紹介したRTIモデルを使って説明を続けました。
RTIモデルとは、子どもの状態に応じて支援を3段階(Tier)で整理する枠組みのこと。数字が上がるほど問題の深刻度が高くなります。
足立氏は、「最も深刻度の高い『Tier3(個別支援)』では、自殺のような重大な問題は減らせません」と強調し、予防に目を向け、対応が後手に回らない環境整備の必要性を訴えました。
不登校をめぐる「動かせる要因」に目を向け、データで支える学校づくりを|西村氏

西村倫子氏(大阪大学大学院 連合小児発達学研究科 准教授)
大阪大学大学院連合小児発達学研究科 准教授の西村倫子氏のテーマは、「不登校の予防と早期発見のためのデータ活用」。
不登校の要因をどのように捉え、どのように早期支援につなげるかについて、研究と学校現場をつなぐ視点から紹介しました。
同氏は、不登校の要因は「いじめ・友人関係・学業・家庭」といった従来型の分類では捉えきれず、またいずれか1つの要因が原因というよりは、複数の要因が重なりやすい状況があると指摘。
そのうえで、不登校に関わる要因として、発達特性や家庭背景など容易に変えられない要因(静的要因)と、介入によって変えられる要因(動的要因)に分けて捉える視点も重要と説明しました。そして、静的要因に原因を帰属させるより、まず動的要因に働きかけることが支援として有効との考えを示しました。
◾️小さなSOSに気付く仕組みづくりが必要
西村氏は、そうした要因を静的・動的に分ける視点をもとに、教師・保護者・児童生徒の三者を対象にした調査を通じて要因の捉え方や支援とのミスマッチを検証。
その結果、三者の間には認識のずれがあり、特に、体調不良や不安、睡眠リズムの乱れなどの「見えにくいサイン」は、子どもと保護者の7〜88割が感じている一方で、教師には見えにくい傾向があることが分かったといいます。
これは、COCOLOプランが掲げる3つの柱のうち、「心の小さなSOS」に当たる部分です。 西村氏は変化を早期に捉える仕組みづくりの重要性を強調。
具体的な実践例として、子どもが日々の体調や気分を端末で入力することで、そのデータをもとに心身の変化を見える化できる健康観察アプリ「デイケン」を紹介。

こころとからだの連絡帳 デイケン
デイケンに蓄積されたデータからは、毎日不調を訴える子だけでなく、普段は元気に見えても、時折強い不調を示す子どもが、後に抑うつや不安を高める傾向があることも明らかになったといいます。
さらに、スクリーニングや、PHQ-4による心の状態の調査を通じて、コロナ禍以降、特に中学生女子で抑うつの傾向が上昇していると述べ、思春期の変化や社会的ストレスの影響を踏まえた支援の必要性を指摘しました。
◾️学校風土を改善することで不登校が減る
西村氏は、不登校の予防には個人だけでなく、学校環境に目を向ける必要があると指摘。これは学校風土は介入によって改善できる動的要因の1つであり、風土が良い学校では不登校や抑うつの傾向が低いことがデータで示されているからです。
「学校風土の改善とは、つまり子どもたちが安心して過ごせる学校づくりです。そうした環境を整えるのは、学校の教員が最も専門性を発揮できる領域です」と述べ、現場が主体となって風土を整えていく重要性を訴えました。
さらに西村氏は、データが現場で活用されている具体例として、品川区の取組を紹介。品川区では、いじめの予防、学校の状態把握、子どもの心身の変化の可視化を目的に、いじめ予防プログラム「トリプルチェンジ」や「学校風土D調査」、「デイケン」、子どもの心の状態を可視化できるツール「NiCoLi」などを総合的に導入しています。
その結果、比較的軽度のいじめ被害(月1回程度)だけでなく、深刻といえるいじめ被害(週1回以上)も全体として減少傾向を示しました。児童生徒による報告だけでなく、教員によるいじめ認知も低下傾向にあり、取組の成果がうかがえます。
また、学校風土が良いほど抑うつ・不安の得点が低く、デイケンやNiCoLiの実施率が高い学校ほど、いじめの被害・目撃数が少ないという明確な相関も示されました。
監修:足立 匡基(あだち まさき)

- 公益社団法人 子どもの発達科学研究所 客員研究員
- 明治学院大学心理学部 准教授
- 弘前大学大学院医学研究科 客員研究員
- 博士(人間科学)
監修:西村 倫子(にしむら ともこ)

- 公益社団法人 子どもの発達科学研究所 主任研究員
- 大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合 小児発達学研究科 准教授
- 博士(小児発達学)
- 所属学会:日本児童青年精神医学会、日本教育心理学会、日本発達心理学会、日本疫学会、日本精神神経学会、日本脳科学会、日本DOHaD学会










