アメリカには読み書きに困難を抱える言語性学習障がい(LD:Learning Disabilities)を持つ子どもたちのための学校があります。今から50年以上前、1971年に設立されたランドマークスクールです。
日本でランドマークスクールを長年紹介し続けてきた、子どもの発達科学研究所 主席研究員の和久田学が、今年9月に現地を視察した最新レポートを2回にわたってお届けします。今回は第2回のハイスクール編です。(小中編はコチラ)
まるでひとつの街のような、広大なハイスクール
9月16日(火)、小中学校を訪れた翌日、私はランドマーク・ハイスクールを訪れた。これまでにも一度だけ足を運んだことはあるが、その時は、校長だったBill Barrett先生から簡単な説明を受けただけだった。しかし今回は、校舎を歩き、授業を参観し、教師や生徒と一日を共にすることができた。
ランドマーク・ハイスクールは小中学校からほど近い場所に位置し、より広大なキャンパスに数多くの校舎が並ぶ。約300人の生徒と130人ものスタッフが学びと生活を共にしており、その規模の大きさに圧倒されつつも、「ここには大きな共同体がある」と感じた。
生徒の中には通学生もいれば、寮で生活する生徒もいる。校舎は温かみがあるデザインで、開校当初の建物が大切に使われているとのことだ。キャンパスの中心は小高い丘の上にあり、緑の中にランドマークスクールのさまざまな施設が点在している。
学校というよりもひとつの街を訪れたように感じるのだ。

あいにくの天候、スクールの案内板がお出迎え
かつて校長を務めていたBillは、今も健在で、この日はホスト役として私を案内してくれた。新しい校長のJohn Kerney先生と共に、温かく迎えてくれたのが印象的だった。
日本語を話す生徒との出会い
最初に私たちを校内ツアーに連れ出してくれたのは、日本語が話せる生徒のSamだった。彼は日系で、明るく人懐っこい笑顔を浮かべながら、自分の体験を語ってくれた。
「僕はディスレクシア(※編集者注 知的な遅れはないものの、読み書きに困難を抱える学習障がいのひとつ)と診断されてすぐランドマークに来たんです。ここでたくさんの成功体験を得て、友達もできた。寮生活も楽しんでいます。3か月に一度しか自宅に帰れないけれど、全然気になりません」
そう言って笑うSamの表情は、誇りに満ちていた。校舎を歩きながら、彼は新しく整備されたミーティングルームや生徒ラウンジを紹介し、「ここで仲間と話したりゲームをしたりするんです」と楽しげに説明する。
最後には、自分の寮の部屋まで案内してくれた。部屋の片隅にはギターが立てかけられ、日本の国旗が飾られている。日本人であること、というよりも、SamがSam自身であることに自信を持っている。それが彼の態度に表れている。

ハイスクールの新校長John Kerney先生と和久田
おそらく、ここに来るまでディスレクシアのために、悩み苦しんだことだろうが、それが既に解消されている。Samは、そのことを自らの言葉でも語っていた。
「前は『できない自分』ばかりでした。でもランドマークに来て、『できる自分』に出会えたんです」
彼にとって、ランドマークスクールは学校であると同時に家なのだ。自分自身を受け容れ、育ててくれる場所であり、だからこそ、彼の表情は明るいのだろう。
80分授業と探究学習の導入
これまで、ランドマークスクールでは子どもの集中力が持続する時間に合わせ、短めの授業を重ねて子どもの集中をつないできた。しかし、2025年からの新たな取り組みとして、授業時間が延長されている。最新の研究を踏まえ、「情報を整理し深めるにはより長い時間が必要」という判断によるものだ。
そのため、現在小中学校では70分、ハイスクールでは80分授業が採用されている。

教室には、授業前にスマホを預けるBOXが設置されている
ただし、単に時間を引き延ばすのではない。授業は「最初のアクティビティ」「メインの学び」「振り返り」というパートに分けられ、その間に意図的に気分転換の時間が挟まれている。だからこそ、生徒の集中力が切れることなく、学びが深まる。
Samやその他の生徒、教師たちに「80分は長すぎないか」と尋ねると、返ってきたのは肯定的な答えだった。
「むしろいいです。授業移動が減って、学びに集中できるし、宿題も減りました。」
丘を登ったり降りたりして移動する広いキャンパスを思えば、授業数を減らすこと自体が合理的であり、同時に学習効果を高める工夫になっているのだと納得した。
また、小中学校と同様、探究学習が始まっていた。基礎的な言語スキルを大切にしながらも、自ら問いを立て、調べ、考える授業が増えている。知識の習得だけでなく、「学びを自分のものにする力」を育てようとしているのだ。
高校生が人格や価値観を真剣に語り合うSELの授業
特に印象的だったのは、SEL(Social and Emotional Learning:社会性と情動の学習)に関する授業だった。SELは、自己理解や他者とのかかわり方など、「非認知能力」を高めることを目的とした教育アプローチだ。日本でも、2022年改訂の生徒指導提要に取り上げられるなど、近年注目が高まっている。
授業中、人格や価値観について、生徒と教師が真剣に語り合っていた。思春期まっただ中の高校生が自分の意見を率直にぶつけ、教師がそれを真剣に受け止める。そこには信頼関係と知的なやり取りの豊かさがあった。
例えば、「人生の成功とは何か」について真面目に語る高校生を皆さんは見たことがあるだろうか。ランドマークスクールでは、それを授業で取り扱うのである。
まず、担当教師が生徒に問いかける。
「あなたが思う人生の成功とは何だろうか?」

歴代教職員や卒業していった学生たちのネーミング・ブリック
生徒はそれぞれの答えを象徴する画像をインターネットから探し出し、画面に貼り付けて共有していく。やがて教室の前には、お金、SNSの「Like!(いいね!)」、人混みの写真、犬の絵など、バラエティに富んだ「成功のイメージ」が並んだ。
一人ひとりが、自分の選んだ画像について語る。
「成功とは、裕福になることだ」
「『いいね!』をたくさんもらうこと。他人から認められることだ」
「家族を持つことだ。犬はその象徴なんだ」
意見は違っても、誰も笑わない。むしろ、互いの考えを尊重し合い、議論を深めていく。教室には静かな熱気が漂い、教師もまた生徒の輪に加わって対話を続ける。
高校生が人生の成功について真剣に語り合う――その光景は、日本の学校ではなかなか見られないものだ。ここでは、知的能力の高さと信頼関係の深さが一体となって、生徒の成長を支えている。
人間的につながる支援と、自立に向けたちょうどよい距離感
ランドマーク・ハイスクールを歩いていて最も強く感じたのは、「学校がファミリーになっている」ということだ。生徒と教師が共に過ごし、共に悩み、共に喜ぶ。その関係性の中で、学びと成長が支えられている。
ランドマークスクールの生徒たちは、知的障がいはないが読み書きに困難を抱えている。そのために生じる葛藤やメンタルヘルスの課題は少なくない。中には生活スキルやスケジュール管理などにも困難さがある生徒もいて、放っておくと失敗体験を積み重ねてしまう可能性が高いと言える。
そこで学校は、生徒が毎日少なくとも1回以上、特定の教師と話す機会を持てるようにしている。学習や進路の相談だけでなく、ちょっとした雑談も含めて「安心して頼れる存在」が常にそばにいる。寮には教員も住み込み、生活の場そのものが支援と教育の場になっているのだ。

個別指導ブース。全生徒が2日に1回個別指導を受けられるように、多数設置されている
生徒300人に対してスタッフ130人という数字が示すように、支援体制は非常に手厚い。教師は全て修士以上の学位を持ち、ランドマークのメソッドに精通している。つまり、質の高い教師がそろっているのだが、ランドマークのすごさはそこではない。むしろ教師と生徒、生徒同士の人と人との信頼関係、絆といったものにあるように思う。
「教育はシステムやプログラムの内容や質の高さではなく、結局、人間的なつながりにある」という当たり前のことが重視されているのである。
これは理想の教育だろうし、生徒にとって必要なことだろう。
一方で、このような理想的な環境は、ランドマーク以外で実現することが難しいのも事実だ。以前よりも、学習障がいに対する理解や支援は格段に進んできたとはいえ、卒業後にはランドマークスクールと同じような支援を受けることはできない。
そのため、ランドマークスクールでは、「やりすぎないようにしている」のだそうだ。ちょうど良い距離感、「できる」を積み重ねさせる中で、支援を減らすこと、そして生徒が少しの支援を受けながら、自立できることを目指しているのである。

自動車工学の授業を行うガレージは赤が印象的だった
ランドマーク・ハイスクールの大学進学率は非常に高い。けれども、進学一辺倒ではないのが特徴だ。授業の中には、選択科目として、木工、アート、自動車工学などの実習科目があり、卒業後に就職という道を選ぶ生徒もいる。
大切なのは「進学率」や「テストの点数」ではなく、生徒一人ひとりの今と未来の幸せ。その理念が学校全体に貫かれていることだろう。
日本の教育現場への示唆
もし日本にランドマークスクールのような高校があれば、どれほどの子どもが救われるだろうか。残念ながら、同じ規模や仕組みを日本で実現するのは容易ではない。だが、ランドマークの理念や具体的な指導法から学び、私たちなりに教育の質を高めていくことはできる。
「教育は人とのつながりである」
「子どもの幸せこそが最も大切である」
このシンプルだが揺るぎない信念を、日本の現場にどう根づかせるか。ランドマークスクールへの視察は、その問いを私に強く投げかけてきた。

ハイスクール視察後、太陽に向かう飛行機雲
ランドマークスクールは、小中学校も、ハイスクールも、学習障がいを抱える子どもたちにとって、単なる学校ではなく「生きる力を育む場」そのものだった。教師と生徒が家族のように関わり合い、70~80分の授業や探究学習、SELを通じて知識と人格の両面を支えている。
世界に数多くある教育実践の中でも、ランドマークは極めて特別な存在である。同じものをそのまま日本でつくることは難しい。だが、その理念を学び、可能なかぎり取り入れていくことはできる。私たちがランドマークから学び続けることで、子どもたちは未来にもっと多くの可能性を拓けるのではないだろうか。
執筆:和久田 学(わくた まなぶ)

- 公益社団法人子どもの発達科学研究所 所長・主席研究員
- 大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学 連合小児発達学研究科 招聘教員
- 博士(小児発達学)
- 専門は発達心理学、教育学
- 所属学会:特殊教育学会、LD学会、自閉症スペクトラム学会、子どもいじめ防止学会
参考資料
- https://www.landmarkschool.org/
- https://maaps.org/school-directory/view/32/landmark-school/
- 生徒指導提要(令和4年12月、文部科学省)P.26









