反抗的な態度は脳の暴走状態? 科学が教えてくれる思春期の脳の発達

2025年11月13日(木曜日)

反抗的な態度は脳の暴走状態? 科学が教えてくれる思春期の脳の発達

子どもの思春期は、親にとって子育ての大きな壁となります。反抗的な態度に親子の衝突が増え、親も疲れを感じやすくなってしまいがちです。思春期はなぜ起こり、どう受け止めればよいのでしょうか。

子どもの発達科学研究所 所長で主席研究員の和久田学は「脳の発達が深く関わっており、性ホルモンの影響で脳の働きのバランスが崩れやすくなるため」と語ります。思春期は大人へ成長するために欠かせない現象――。その受け止め方について、和久田が解説します。

思春期の嵐は脳の発達が関わる「ヒトの発達の過程」

「急に反抗的になった」「何を言っても素直に聞かない」「ちょっとしたことで怒る」――。

子どもが思春期に差しかかると、こうした変化に戸惑う保護者や教員は少なくありません。学校でも家庭でも、情緒の不安定さや人間関係のトラブル、衝動的な行動が増えることがよくあります。

実際、多くのデータが、思春期は不安定な時期であることを示しています。例えば暴力、薬物依存などの犯罪に初めて手を染める時期も、抑うつ、不安、依存など、メンタルヘルスが悪化するリスクが高いのも思春期です。

何より私たち自身も思春期だった頃、意味もなく興奮したり、不安になったり、今では考えられないような突発的な行動を取ってしまったりした経験を持っているのではないでしょうか。自分の周りの友人たちも同様でした。思春期の荒れ・問題はいつだって話題となり、映画や物語に取り上げられるほどなのです。

今の時代に思春期を迎える若者たちもまた、同様のリスクを持っています。しかし、教員など子どもの身近にいる人たちから見ると、今の子どもの思春期は単なる「荒れ」にとどまらないと感じられるものになっているかもしれません。

彼・彼女らは、私たち大人よりずっとテクノロジーを使うことに長けていて、インターネット上の様々なサービスを利用できます。大人が知らない、または見えにくいネット世界の奥底で、私たちには理解できない世界をつくっていることもあります。そのため思春期のリスクは、予測できないような深刻な問題に陥る可能性もあるのです。

そんな時代だからこそ、私たちは改めて考えなければなりません。
思春期はなぜ嵐のようになるのか、と。

インターネットの影響を強く受ける現代の若者にも、ずっと昔の若者にも、思春期の嵐は訪れていました。しかも日本の若者に限ったことではありません。さまざまな研究が、国、文化、人種にかかわらず、思春期のリスクがあることを証明しています。

となると、この思春期の嵐は「社会の問題や環境の影響だ」という単純な考えでは片付けられないことになります。

むしろヒトの発達の過程であると考えるべきであり、実は思春期の嵐に脳の発達が深く関わっていることが科学的に分かっているのです。

思春期の親が知っておきたい脳のバランス Hot BrainとCool Brain

脳は、その機能から2つの部分に分けることができます。Hot Brain(情動の脳)とCool Brain(抑制の脳)です。

Hot Brain と Cool Brain

Hot Brain と Cool Brain

Hot Brain(情動の脳)大脳辺縁系に代表される、感情や本能的な反応を司る部分。喜び、怒り、不安、恐怖などが即座に生まれる。

Cool Brain(抑制の脳)大脳皮質、特に前頭前野にあたる部分。計画や抑制、相手の気持ちを考えるなど、理性的な判断を担う。

ヒトの場合、この2つの脳のバランスが重要です。Hot Brainが働くからこそ、さまざまなことに意欲を持ち、豊かな生活を送ることができます。ただしHot Brainだけが暴走してしまうと、「頭にきた!(怒り)」→「暴力」「欲しい」→「すぐに手に入れる(窃盗)」など、社会的に許されない行動に結びついてしまいます。

そこで必要なのがCool Brainです。Cool Brainは大脳皮質、すなわちヒトがヒトらしくあるために必要な脳の働きであり、Hot Brainの暴走を抑制します。

例えば、「頭にきた!(怒り)」→「暴力ではなく話し合いで解決しよう」や、「欲しい」→「すぐに手を伸ばすのではなく対価を支払うなどの正しい手続きを踏もう」といった思考になります。

子どもの発達は、いつだってこの2つの脳のバランスの中で進んでいきます。特にCool Brainの発達は重要です。

例えば、赤ちゃんの頃は自分の「欲しい」「やりたい」を優先しているのに、1歳、2歳と年齢が進むうちに、我慢できるようになったり、交渉に応じられるようになったりします。

子ども同士、集団で遊ぶ頃になると、自分の気持ち(Hot Brain)を抑えて、相手の気持ちを思いやり、相手に合わせることができる(Cool Brain)ようになるのです。

Hot Brainの急激な発達は「大人になるために必要な現象」

ところが思春期に入ると、性ホルモンの影響からHot Brainが急激に発達し始めます。つまり、Cool Brainとのバランスが崩れてしまうのです。

それは、あたかもブレーキが効きにくい自動車のようなもの。感情的になる、興奮する、相手の話を聞けない、といったことは、まさにHot Brainの暴走状態と表現することができます。

つまり思春期の嵐は、その子ども自身の問題というよりも、発達の過程であると考えられます。

たとえ大人への反抗的な態度が見られたとしても、「この子は反抗的だ」「性格の問題だ」と決めつけるのではなく、「脳の発達段階」として捉えてはいかがでしょうか。

そうした時期が来たのだ、それが大人になるために必要な現象なのだ、と周りの大人たちが理解することが肝心なのです。

執筆:和久田 学(わくた まなぶ)

和久田 学
  • 公益社団法人子どもの発達科学研究所 所長・主席研究員
  • 大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学 連合小児発達学研究科 招聘教員
  • 博士(小児発達学)
  • 専門は発達心理学、教育学
  • 所属学会:特殊教育学会、LD学会、自閉症スペクトラム学会、子どもいじめ防止学会
浜松市出身。特別支援学校教諭として20年以上現場に勤務。その後、科学的根拠のある支援方法を大阪大学大学院の連合小児発達学研究科で学び、博士号(小児発達学)を取得。専門は子どものいじめや不登校など。教材開発や各種プログラム開発も行っている。科学的視点を取り入れたわかりやすい解説が好評で、新聞やテレビでのコメントも多数。著書に『科学的に考える子育て エビデンスに基づく10の真実』(緑書房)など。趣味は音楽(楽器演奏)。
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