ピンクシャツデー運動への期待と残された課題 いじめ防止に必要なネクストアクション

2026年02月13日(金曜日)

ピンクシャツデー運動への期待と残された課題 いじめ防止に必要なネクストアクション

テレビやSNSなどで「いじめ」にまつわる報道を目にするたびに、「自分にも何かできることはないだろうか」と感じている方は多いのではないでしょうか。

いじめにまつわる課題感が社会全体に広まるなか、2月の最終水曜日にピンク色のものを身につけることで「いじめ反対」の意思を示すカナダ発の社会運動、「ピンクシャツデー運動」の取り組みが日本でも広がりつつあります。

(取材・執筆 コハツWEB取材班)

子どもたちの自発的な取り組みが生んだムーブメント

「ピンクシャツデー運動」は2007年にカナダ東部ノバスコシア州にある、とある高校で生まれた社会運動。

発端は新学期初日、9年生(日本の中学3年生に相当)の男子生徒がピンク色のポロシャツを着て登校したところ、「同性愛者だ」とからかわれ、暴行まで受けてしまった事件でした。

この出来事を耳にした同校に通う12年生(高校3年生)の男子生徒2人は、強い憤りを覚え、何かできることはないかと思索します。

そしてその日のうちに、地元のディスカウント店で約75枚ものピンク色のTシャツやタンクトップを購入。ネットの掲示板などを通じて「明日みんなでピンクのシャツを着て登校しよう」と、クラスメイトに「いじめ反対」の意思表示を呼びかけたのです。

2人はその翌朝、購入したピンクシャツを配ろうと、早めに登校。するとそこには、すでに多くの生徒たちが、自前でピンク色の服や小物を身につけて登校してくる光景が広がっていました。

2人の呼びかけは一晩にして学校中に広まり、多くの賛同が寄せられることとなったのです。

世界への広がり

この出来事は地元メディアで紹介されたことを皮切りに、瞬く間にカナダ全土へ広がります。

その結果、同年9月、ノバスコシア州政府はこの出来事を称え「いじめに立ち向かう日」を制定。

さらに翌年には、ブリティッシュコロンビア州も2月最終水曜日を「反いじめの日」とし、州内の学校や職場でキャンペーンを展開。

このキャンペーンをきっかけに、毎年2月の最終水曜日はピンク色のものを身につけて「いじめ反対」の意思表示をする日、「ピンクシャツデー」として定着したのです(なお、学校で取り組みやすいよう、国によっては学期都合にあわせて別の日を設定している)。

また、この取り組みは世界にも波及。ピンクシャツデーは現在世界180以上の国と地域に広がったとされています。

これは日本も例外ではありません。たとえば、全国的にも珍しい市長直轄の「いじめからこどもを守る課」を持つ大阪府八尾市では、2023年度から毎年、議員や学校教員がピンクのものを身につけて啓発活動を実施。こうした取り組みが、官民学を問わず全国的に広がりつつあるのです。

傍観者教育と学校風土改善が重要

ピンクシャツデー運動には、ピンクのシャツや小物を身につけるだけで参加できる手軽さや、非暴力的かつ視覚的に分かりやすい方法で連帯を示すことができる点など、多くのメリットが存在します。

また「いじめ予防」という観点では、「傍観者」(加害でも被害でもない、見ている子ども)層に行動を促す契機として機能するという点においても価値があるといえるでしょう。

『学校を変える いじめの科学』(日本評論社)などの著書がある和久田学(公益社団法人子どもの発達科学研究所所長・主席研究員)によると、エビデンスがあるといわれているいじめ予防プログラムのほとんどが「傍観者教育」だそうです。

複数の研究で、「いじめの8割以上に傍観者がいる」「見かけ上は加害者側に見える子どもでも、実は『いじめなど止めて欲しい』と考えていることが珍しくない」ことが明らかになっています。いじめの重大化などを防ぐためには、こうした傍観者に働きかけることが非常に重要なのです。(和久田)

実際に、傍観者が介入したとき、いじめの半分以上は即座に止められたというデータも存在するといいます。

そして、いじめ予防においてもう一つ重要となるのが「学校風土」だと和久田は続けます。

学校風土とは、子どもたちが感じている学校の雰囲気や学校環境、学校の状況などのことです。学校風土が良い学校、クラスではいじめが起きにくくなることが複数の研究によって明らかになっています。そして学校風土は、子どもたち、教師によって創られるもの。ピンクシャツデーのようなわかりやすい取り組みは、学校風土向上の観点でも効果があると考えられるでしょう。(和久田)

ピンクシャツデーの課題と解決策

一方で、ピンクシャツデー運動には課題も残されています。

「年に一度ピンクの服を着るだけでは、恒常的ないじめ問題の解決には不十分ではないか」「単にピンクのものを身につけるだけで満足してしまい、その後の行動につながらないケースが少なくない」といった指摘の声は、国内外問わず少なくありません。

また、少数意見ながら、「ピンクシャツデーで目立つ行動をすると、かえっていじめっ子の報復対象になるのでは」という不安の声なども寄せられているのが実態です。

実際、カナダではピンクシャツデー開始から15年以上が経過しても、生徒のいじめ被害率は統計上、大きく減少していないとの報告もあります。

和久田は次のように語ります。

ピンクシャツデーは、最初の一歩としてはとても有効。私の所属する子どもの発達科学研究所でも、何か取り組むことができないかと検討中です。しかし、そこだけで満足してはもったいない。いじめ予防も、いじめ対応も、既に様々な研究によって有効な方法が明らかになっています。ピンクシャツデーをきっかけに、いじめ予防に関心を持ち、さらなる実践につなげていくことが重要ではないでしょうか(和久田)

執筆:和久田 学(わくた まなぶ)

和久田 学
  • 公益社団法人子どもの発達科学研究所 所長・主席研究員
  • 大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学 連合小児発達学研究科 招聘教員
  • 博士(小児発達学)
  • 専門は発達心理学、教育学
  • 所属学会:特殊教育学会、LD学会、自閉症スペクトラム学会、子どもいじめ防止学会
浜松市出身。特別支援学校教諭として20年以上現場に勤務。その後、科学的根拠のある支援方法を大阪大学大学院の連合小児発達学研究科で学び、博士号(小児発達学)を取得。専門は子どものいじめや不登校など。教材開発や各種プログラム開発も行っている。科学的視点を取り入れたわかりやすい解説が好評で、新聞やテレビでのコメントも多数。著書に『科学的に考える子育て エビデンスに基づく10の真実』(緑書房)など。趣味は音楽(楽器演奏)。

公益社団法人 子どもの発達科学研究所が提供する学校支援サービスは下記をご覧ください。
https://service.kohatsu.org/

参考文献

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