子どもとたくさんの時間を過ごす夏休み。夏といえば海水浴に花火大会、夏祭りなど楽しいイベントが目白押しです。でも、せっかく子どもと出かけたのに楽しんでくれない、ぐずってばかり……とイライラした経験はありませんか。
じつはこの不機嫌、子どものわがままが原因ではなく、脳の受け止め方による「感覚のちがい」からきている可能性があります。これらについて子どもの発達科学研究所 主任研究員の大須賀優子氏に話を聞きました。
(取材・執筆:コハツWEB編集部)
夏休みのがっかり「あるある」の正体とは
楽しい夏休みの思い出を作ろうと、子どもを連れて海へ出かけたものの、砂浜を嫌がって歩かない。あるいは、打ち上げ花火にびっくりして泣き出す、テーマパークのキャラクターを怖がって近づこうとしない――。
そんな子どもの様子に、「せっかく来たのに……」とがっかりした経験のある親も多いのではないでしょうか。
そんな悩みに対し、「親の期待通りに反応してくれないのは、脳が受け取る感覚が親子で違うからかもしれません」と話すのは、子どもの発達科学研究所 主任研究員の大須賀優子氏です。
敏感や鈍感は脳の感じ方のちがい
「人はある感覚刺激を受けると脳で認知・処理し、何らかの行動に至ります。脳科学の視点で捉えると、感覚、認知、行動のサイクルを生涯繰り返しているといえます。
刺激を感じ取る『感覚』には個人差があります。 同じ刺激に対して、『強い刺激は不快で不安。繊細な刺激がちょうどいい』と感じる敏感な人もいれば、『弱い刺激ではまだ足りない。強い刺激がちょうどいい』と感じる鈍感な人もいる。タイプはさまざまで、そのちがいは個性そのものなんです」(大須賀氏)
子どもは大人と比較して経験が少ないため、刺激には敏感になる傾向が。さらに子ども同士でも感覚が大きく違うことも。大須賀氏は、そうした違いが「乱暴な子」「弱い子」などのレッテル貼りにつながっていくことがあると続けます。
「たとえば強い刺激を好む子どもの中には、人と接触する際に強くぶつかったり、強くハイタッチすることが楽しいと感じる子もいます。そういう子は周りから『乱暴な子』と思われがちです。しかし実際には、接触する感覚に関して鈍感なだけ、ということがあるのです」
乱暴な子、弱い子などと簡単にレッテルを貼るのではなく、「感覚のちがい」という脳科学的な視点で考えると、対応も変わると大須賀氏は言います。
「強い刺激を好む子の行動で、弱い刺激を好む子が困っていた場合は、『◯◯さんは強い刺激が好きなんだね。でも△△さんはバーンってやられると痛いなって感じるんだって。だからそっとやってみようか』など、感覚のちがいについて、具体的に教えてあげるとよいでしょう」
音楽やカレーの好みで分かる感覚の個性
こうした感覚のちがいは、大人同士でもよくあることだと大須賀氏は指摘します。
「大音量で激しい音楽を好む人は、強い聴覚刺激がちょうどよいと感じる人です。一方、やさしいピアノ曲やオルゴール曲など弱い聴覚刺激が心地よいと感じる人もいます。どちらかが『まちがい』というわけではなく、ただの『ちがい』なのです」
カレーの辛さについても同じことがいえます。辛さは口の中の痛覚で認知しますが、辛い刺激に鈍感な人は、汗をかいても口の中がヒリヒリしても刺激が欲しいと思う。でも繊細な人はピリッとくるだけで不快に感じます。
家庭内でもお父さんは激辛派、お母さんは中辛派、子どもたちは辛いのが苦手、なんてこともよくあるのではないのでしょうか。
「辛党の人は『どうしてこれくらいの辛さが食べられないの? 』 と言いたくなるでしょうが、これは脳が受ける感覚の違いなので仕方のないこと。甘く作っておいて、あとから辛味パウダーで辛さを調節する、などうまくそれぞれの感覚に合わせることが大事です」(大須賀氏)
「ちがい」は一生続く? 慣れにより変化する感覚も
こうした感覚のちがいは、一生続くのでしょうか。「慣れや学習により変化する感覚もある」と大須賀氏は言います。
「たとえばコーヒー。子どもの頃は苦手だったコーヒーの苦味が、年齢を重ねるうちにおいしく感じるようになった、という経験はありませんか。
子どもの頃は苦さを受け入れられなかったけれど、慣れや学びによって、苦くても安全であることを体感したり、苦味の奥の何かを感じ取れるようになったり。こうした経験を重ねることで、感覚が変化することはよくあります」
味覚だけでなく、砂浜の砂が足に付くのを感じ取る触覚、打ち上げ花火の音を感じる聴覚などの感覚も、経験から学んで変化していきます。
「砂浜も花火大会も、いつの間にか楽しめるようになった」という事例も、「砂はさらさらして気持ちよいときもある」「花火は大きな音もするけれどキラキラしていてきれいだった」などと経験し学ぶことで感覚が変化したのだと考えると、至極納得のいく話です。
無理強いは絶対NG 寄り添って安心感を与える
ここで注意しておきたいのが「とにかくやってみなさい」と無理やり経験させたり、「何やってるの! 」「弱虫ね」などと非難したりすることです。
「無理強いしたり非難したりせず、安心感を与えることが大事です。顔に水が付くだけで嫌がるのに不意打ちで水をかけたり、火を怖がるのに手持ち花火を持たせたりしてはトラウマになりかねません。抱っこしながら少し顔を濡らしてみる、『こうやって持てば大丈夫だよ』と一緒に花火を持ってみるなど、安心がくっついた経験をさせてあげるとよいでしょう」(大須賀氏)
さらに子どもと遠出や旅行を計画するときは、「子ども目線で考えてみて」と大須賀氏はアドバイスします。
「子どものため、と思っても、大人の感覚で行き先を選んでいることもあります。暑いなか照り返しのあるテーマパーク、人混み、花火大会など、本当に子どもが楽しめるかな、と今一度考えてみませんか? 案外おうちの庭や近くの公園の方が楽しんでくれた、なんてこともあるかもしれません」
監修:大須賀 優子(おおすか ゆうこ)

- 公益社団法人 子どもの発達科学研究所 副所長・主任研究員
- 小児発達学博士