育児の「困った」といえば、子どもの突然の大声やかんしゃく。「どうして?」「どう対応したらいい?」と頭を悩ませた経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
本記事では、そんな「困った行動」をどう捉え、どう介入していくかのヒントになるABC分析という手法をご紹介します。
子どもの「困った」行動にABC分析を活用すると、関わり方がぐっと変わることも。
専門的で難しそうに感じるかもしれませんが、日々の子育てに気軽に取り入れられる考え方です。子どもの発達科学研究所 研究員の青山智士が解説します。
ABC分析の概要とメリット
ABC分析とは、ヒトの「行動」を以下の「A・B・C」の3つの要素に分けて考える手法です。人間の行動を科学的に分析する「行動科学」の一分野で、問題行動の原因を特定し、効果的な対応策を見つける際に役立ちます。
- A (Antecedent): 先行条件(行動が起こる直前の状況)
- B (Behavior): 行動(実際に起きた行動)
- C (Consequence): 結果(行動の後に起きたこと)
簡単な例として、突然大声を出した子どもの状況をABC分析に当てはめてみると、以下のようになります。
- A(先行条件): 難しい宿題をやらなければならない
- B(行動): 大声で嫌がる
- C(結果): 叱られる
ABC分析を活用すると、問題行動が起こる前の状況(先行条件)を捉え、行動の結果を分析することで、行動への理解を深めることができます。
また、問題行動が起こるきっかけや、その行動をし続ける理由も推定が可能。さらに、先行条件や結果を調整して、望ましくない行動を減らしたり望ましい行動を促したりといった、具体的な関わり方を検討しやすくなるのです。
行動は「結果」に影響される
ABC分析のポイントは、行動だけでなく行動の「前」から「後」までセットで見ることです。まず大切なのは、行動の「後」に良いこと(報酬)が得られると、その行動が増えるという考え方。これはほとんどの人が当たり前だと思っていることですが、改めて確認してみましょう。
例えば、「妹と遊んだら、母親がホットケーキを作ってくれた」といった場合、「妹と遊ぶ」という行動の「後」に、「ホットケーキを作ってくれた(食べた)」という良いこと(報酬)があります。
- B(行動): 妹と遊ぶ
- C(結果): ホットケーキを食べる
こうして整理すると、「また妹と遊ぶ」、つまりその行動が増えていく可能性が見えてきます。このように行動だけでなく結果をセットで理解することで、望ましい行動を増やしていくための関わり方のヒントが得られるのです。
■事例:意図せず結果が「ご褒美」になるケース
C(結果)によって強化されるのは、望ましい行動だけではありません。
ABC分析を用いると、望ましくない行動の後に起きた結果が意図せず「ご褒美」となり、その行動を増やしてしまう可能性にも気づくことができます。
例えば、「ゲームが欲しくて店先で大声で暴れたら買ってもらえた」場面を挙げます。
- B(行動): 大声で暴れた
- C(結果): ゲームを買ってもらえた
店先で大声で暴れることは「望ましくない行動」ですが、その結果として「ゲームを買ってもらえた」という良いこと(報酬)が得られたことになります。
保護者としては、「大声で暴れる」という行動を止めるためにゲームを買い与えたのかもしれません。しかしこの場合、「ゲームを買ってもらえた」という結果が、今後「大声で暴れる」という望ましくない行動を、かえって増やしてしまう可能性があるのです。
続けて、少し複雑になりますが「妹に意地悪をしたら叱られた」場合を例に挙げます。
- B(行動): 妹に意地悪をした
- C(結果): 叱られた
このケースは一見、良いこと(報酬)は無いように見えます。しかし、もし子どもが「妹ばかり親に注目されているのでもっとかまってほしい」と願っていた場合、「叱る」ことが報酬になり得ます。叱るという行為は親からの「注目」や「関わり」であり、子どもにとって良いこと(報酬)になる場合があるためです。
その結果、「妹への意地悪」という望ましくない行動が増えかねないのです。
■行動の結果をコントロールすることの限界
日頃の子育てでは、子どもの「B(行動)」ばかりに目がいき、褒めたり叱ったりをしています。しかし「褒める」は良いとしても、「叱る」ことについては、なるべく叱りたくないと思う保護者も多いのではないでしょうか。
特に子どもが「望ましくない行動」を取ったとき、「叱りたくない」とは思っていても、「叱らざるを得ない」状況であることに、ジレンマを感じるかもしれません。
「叱ることが多くなる」のは避けたいところです。なぜなら「叱られないと動けない子ども」になってしまう可能性があるうえ、「叱る」ことにより、子どもとの関係が悪くなる、自分も疲れるなどの問題が生じかねないからです。
もちろん中には大人自身の経験則として、「自分は叱られて育ったから叱って大丈夫」という考え方もあるかもしれませんが、子どもの受け取り方は大人と同じとは限りません。
自分が叱られたとき、どんなに心細い気持ちになったのかを思い出し、「子どものために」と思いつつも、「叱らないで済むならその方がいい」と考えている方も少なくないことでしょう。
そんなとき、ABC分析を使います。
これまで「B行動」や「C結果」をコントロールすることばかり考えてきましたが、ここで「A先行条件」に注目するのです。そうすると、「叱る」に頼らないで、子どもの行動をコントロールすることができるのです。
A(先行条件)に目を向け環境調整を
子どもの行動を変えるために最も大切なのは、ABC分析における「A(先行条件)」、つまり「行動が起こる前に何があったか」「行動が起こる前の状況はどうだったか」に注目することです。
先ほどの「妹に意地悪をした」例を挙げます。
- A(先行条件):?
- B(行動): 妹に意地悪をする
- C(結果): 叱られる
Aに当てはまる内容としては、「妹が新しく買ってもらった髪飾りを自慢してきて腹が立った」「自分も行きたかった習い事にお母さんと一緒に妹が行って帰ってきたタイミングだった」「お父さんの膝の上に妹が座っていたのを見てうらやましかった」など、事前の状況(先行条件)があったはずです。
行動だけを見ると「意地悪な子だ」と感じてしまうかもしれません。しかし、このように「先行条件(事前の状況)」に目を向けると見え方が変わってきます。「妹に意地悪をする」という行動は、子どもに対する親からの注目が足りていなかったからである可能性などが推測されてくるのです。
子どもの困った行動を減らすためにできること。それは、A(先行条件)に目を向けて環境を調整することです。困った行動を起こす前に、「その子にとってよい環境を整える」という介入行動が重要になります。
今回の例では、妹に意地悪をする行動が起きる前に、その子がお父さんやお母さんを独占でき一緒に過ごせる時間(スペシャルタイム)を意図的につくったり、「今日は学校で何が楽しかった?」など積極的に話しかけたり、関わったりするといった環境調整が考えられます。
もちろん、環境を整えてもすぐにうまくいかないこともあります。
それでも「どうしてこんなことをするんだろう?」と悩んだとき、「この子を取り巻く環境(A: 先行条件)はどうだったかな?」と一歩引いて考えると、きっと新しいヒントが見つかるはずです。
また、「宿題をやらない」という行動を変えたいときであれば、先行条件を確認し、やらない行動になっている理由を把握します。
そして、理由に合わせ、必要なら学校にも相談しながら宿題の量や難易度を調整する、宿題の時間は家族も静かに過ごす、勉強できるスペースを一緒に作る、宿題を小さなステップに分けるといった調整の工夫が考えられるでしょう。
子育てに行動科学の視点を
単に行動の良し悪しを判断するのではなく、子どもの行動を深く理解した子育てをするためのヒントとしてABC分析を紹介しました。
近年、教育や子育ての分野で「行動科学」の重要性が高まっています。
子どもとの関わりに科学がサポートしてくれることとは、子どもへの視点と、その子に合ったやり方を試行錯誤する介入の仕方です。
ABC分析では、行動の「前」と「後」を含めて子どもを見て、望ましい行動への変化を促す寄り添い方のヒントをお伝えしました。
親(大人)と子のよりよい関わりに科学がお役に立てば幸いです。
執筆者:青山 智士(あおやま ともひと)

- 公益社団法人 子どもの発達科学研究所 研究員
- 浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 特任研究員