部活動におけるいじめは重大化しやすい? 望まれる対策と、教職員にできること

2025年12月12日(金曜日)

部活動におけるいじめは重大化しやすい? 望まれる対策と、教職員にできること

2025年11月にこども家庭庁および文部科学省より公表された「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」。

これまでは自治体で作成・報告されてきたいじめの「重大事態調査報告書」を国が初めて収集・分析し、その結果をもとに作成された、いじめ重大化の未然防止等を目的とした資料です。

分析担当者に聞く「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」(こども家庭庁・文部科学省)のポイント 分析担当者に聞く「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」(こども家庭庁・文部科学省)のポイント 2025年11月21日

本事業にて分析実務を担当した公益社団法人 子どもの発達科学研究所の所長・主席研究員 和久田学氏に、そのポイントを聞く連載「いじめ重大事態調査報告書を読む」。第2回のテーマは、「部活動におけるいじめ」です。

(取材・執筆:コハツWEB取材班)

閉鎖的集団が抱える危うさ

――「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」(以降、留意事項集)では、重大化につながり得る要素・特徴として、部活動をはじめとした「閉鎖的な集団におけるいじめ」が取り上げられています。閉鎖的な集団では、なぜいじめが重大化しやすいのでしょうか。

まず、いじめが発生しても外部から見えづらいことが理由として挙げられます。

今回分析を行なった調査報告書の中にも、部活動の中で発生したいじめが重大化してしまったケースが複数見られました。

たとえば被害者が部活の退部届に「陰湿ないじめを受けたため」と明記していたにもかかわらず、部活担当者が一人で対応しようとしたため学校側がそれを把握できず、対応が行われなかった結果、重大事態に至ってしまった事例などですね。

部活動におけるいじめは発見されにくく、被害も深刻化しやすいのです。

出典:こども家庭庁 文部科学省「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」P47

出典:こども家庭庁 文部科学省「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」P47

――部活動関係者以外の目が入りづらいため対応も遅れがちになり、深刻化しやすいということですね。

そうです。また、部活動のような閉鎖的な集団では、集団独自の不適切な価値観やルールが不文律的に維持されたり、ときには「伝統」という名のもとでむしろ称賛されたりすることがあり、それが重大ないじめを発生させる要因となっていることもあります。

社会通念から見れば明らかに不適切であっても、集団内では「これがここのやり方だ」と正当化されてしまう。

特に、部活動のような特定の目的のもとに構成された集団では、そうしたシンキングエラーが起こりやすい。たとえば、「勝つためだったら何をしてもよい」などですね。

シンキングエラー 「いじめではなく、遊んでいただけ」「悪いことをした人のことはいじめてもよい」などの、考えや認知の間違いのこと。

「何をしてもよい」と言うと極端に聞こえるかもしれません。しかし次のような例で考えるとイメージしやすいのではないでしょうか。

たとえば、とある運動部を全国大会上位入賞まで導いた「名顧問」と呼ばれる先生がいたとします。しかしその顧問は、部活動中にミスをした部員を殴るなど、不適切な指導を行なっている。けれども「成果」を出しているため、周りの人たちは口を出しづらい。

このような姿勢の顧問が放置されると、そうした指導下にある子どもたちも影響を受けていきます。試合で成果を出せない後輩に対して酷い扱いをしたり、部内のルールを破った部員に対して、必要以上に厳しい「罰」を下したり。

その集団の外にいる人から見れば明らかに不適切な行いが正当化され、それがどんどんエスカレートしていくのです。

いじめ防止対策推進法を上手く使ってほしい

――そうした状況を改善するためには、閉鎖集団外の教員などが、「集団が閉鎖的になっていないか」「不適切なルールが温存されていないか」などを把握し、改善していく必要があります。これらの存在は、どうすれば確認できるのでしょうか。

まず取り組むべきは、客観的なチェックです。社会常識に照らし合わせ、「大人には見えない子どもだけの空間が存在しませんか?」「〜なルールは存在しませんか?」といった項目を作り、一つずつ確認していくのです。

その際に重要なのは、大人だけの視点から行わないようにすること。つまり、「子どもからは、どう見えているのか」も正しく把握できるように調査を設計することです。

これまでの様々な調査から、子どもと大人、それぞれから得られる回答結果には大きな乖離があることがわかっています。大人は「問題ない」と思っていたにもかかわらず、子どもは以前から問題を認識していたというケースが少なくないのです。

私の所属する子どもの発達科学研究所でも提供していますが、状態を正確に把握するためには、いじめに関するアンケート調査や学校風土に関する調査などを上手に組み合わせて実施する必要があるでしょう。

公益社団法人 子どもの発達科学研究所が提供する調査ツール「いじめDアンケート」

公益社団法人 子どもの発達科学研究所が提供する調査ツール「いじめDアンケート

――調査を通じて問題を発見したとしても、たとえば成果を出している顧問などに対しては、他の先生からの指摘が入れづらいといった課題もあります。

たしかに学校の先生方は同僚性が強く、互いの立場を尊重する傾向にあり、ただでさえ自分の管轄外のことに関して口を出しにくい環境であることは事実かもしれません。

ましてや「いじめ」については、教員ごとに様々な考え方が存在しており、話し合いで物事を整理しようとしても、うまく意見をまとめるのは難しいでしょう。くわえて、部活動の場合にはOB会などが意見してくることなどもあります。

そこで重要になるのが、いじめ防止対策推進法です。いじめ防止対策推進法は、子どもたちに対して「いじめ」を禁止するだけの法律ではありません。むしろ学校や地域の大人たちに対して、いじめの防止等に取り組むことを定めている法律です。

いじめ防止対策推進法 第七条
学校の設置者は、基本理念にのっとり、その設置する学校におけるいじめの防止等のために必要な措置を講ずる責務を有する。

これはつまり、いじめの防止を推進するにあたって「盾」として利用できる法律だということ。

たとえば校長に進言したり、教育委員会に訴えたり。その際には反発する人や、指摘された職員を庇う人などが現れるかもしれませんが、それらの抵抗に対して「法律」によって理解を求めていくことができる。法律は、そのために存在します。

まだまだ発展途上なところはありますが、近年は少しずついじめ対策への意識が高まりつつある。そうやって声をあげていけば、誰かは必ず反応してくれるはずです。法律をうまく使いながら取り組んでいってほしいですね。

部活動の地域移行が抱えるリスク

――今回の留意事項集には、閉鎖的な集団におけるいじめを予防するためには「地域や家族など外部と関わりを持ち、意見を聴く機会をつくったりするなど、集団活動の閉鎖性を取り除き、外に開かれるようにしていく必要がある」との記載もあります。たとえば部活動の場合、どのような施策が考えられますか。

近年、コミュニティスクールをはじめとして、学校を地域に開く流れが加速しつつあります。そしてそれは、部活動も例外ではありません。

2022年にはスポーツ庁および文化庁より「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」が公表され、「地域の子供たちは、学校も含めた地域で育てる。」というビジョンのもと、部活動も顧問教員の自主性に任せるのではなく、外部指導者などを地域から確保していく流れが進んでいます。

学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン(前文)
少子化が進展する中、学校部活動を従前と同様の体制で運営することは難しくなってきており、学校や地域によっては存続が厳しい状況にある。また、専門性や意思に関わらず教師が顧問を務めるこれまでの指導体制を継続することは、学校の働き方改革が進む中、より一層厳しくなる。

生徒の豊かなスポーツ・文化芸術活動を実現するためには、学校と地域との連携・協働により、学校部活動の在り方に関し速やかに改革に取り組み、生徒や保護者の負担に十分配慮しつつ、持続可能な活動環境を整備する必要がある。

こうした流れの中で、少しずつ外部に開かれていくことが望ましいでしょう。

――教員の負担等も削減される、とても良い流れですね。

一方で、部活動が地域に開かれていくことにはリスクもあります。

学校の先生の場合、いじめ防止対策推進法や子どもの発達段階などについて、ある程度の知識が保証されています。

一方で部活動指導を地域移行した場合、そこで指導を担当する人は、必ずしも子どもの発達やいじめ防止などについて知見があるとは限りません。極端な話、学校で行われているよりも圧倒的に不適切な指導方針を取る方が入り込んでしまうリスクすらある。

そのためスポーツ庁や文科省でも不適切指導防止策の検討が進んでいますし、私たち(子どもの発達科学研究所)も現在、こうしたリスクを軽減するプログラムなどについても開発を進めています。

この流れがより良いカタチで進んでいくよう、やれることを考えていきたいと思います。

【参加無料】オンラインセミナー開催のお知らせ 12/19(金)13:30~ 
本記事で紹介した重大事態調査報告書分析の結果や、留意事項集・研修用事例集の内容を和久田が解説する、行政・教育関係者向けのオンラインセミナーを開催します。参加費は無料。詳細は以下をご確認ください。

開催日時:2025年12月19日(金) 13:30~15:00(後日録画配信あり)
開催方法:オンライン(Zoomウェビナー)
参加費:無料
定員:500名(先着登録順、要事前申込)
対象:教職員、首長部局、教育委員会等に所属する、教育に携わる方
※個人の方、報道関係者の方はご参加いただけませんので予めご了承ください
申込締切:12月18日(木)12:00(締切に関わらず定員に達し次第受付終了となります)
申込方法:こちらのフォームよりお申し込みください

執筆:和久田 学(わくた まなぶ)

和久田 学
  • 公益社団法人子どもの発達科学研究所 所長・主席研究員
  • 大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学 連合小児発達学研究科 招聘教員
  • 博士(小児発達学)
  • 専門は発達心理学、教育学
  • 所属学会:特殊教育学会、LD学会、自閉症スペクトラム学会、子どもいじめ防止学会
浜松市出身。特別支援学校教諭として20年以上現場に勤務。その後、科学的根拠のある支援方法を大阪大学大学院の連合小児発達学研究科で学び、博士号(小児発達学)を取得。専門は子どものいじめや不登校など。教材開発や各種プログラム開発も行っている。科学的視点を取り入れたわかりやすい解説が好評で、新聞やテレビでのコメントも多数。著書に『科学的に考える子育て エビデンスに基づく10の真実』(緑書房)など。趣味は音楽(楽器演奏)。

参考文献

※「シンキングエラー」は公益社団法人子どもの発達科学研究所の登録商標です

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