2025年11月にこども家庭庁および文部科学省より公表された「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」。
これまでは自治体で作成・報告されてきたいじめの「重大事態調査報告書」を国が初めて収集・分析し、その結果をもとに作成された、いじめ重大化の未然防止等を目的とした資料です。
本事業にて分析実務を担当した公益社団法人 子どもの発達科学研究所の所長・主席研究員 和久田学に、そのポイントを聞く連載「いじめ重大事態調査報告書を読む」。第3回のテーマは、「交際関係の開始・解消にまつわるいじめ」です。
(取材・執筆 コハツWEB取材班)
いじめと「交際関係」の複雑な関係
――「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」(以下、留意事項集)では、「交際関係の開始・解消、性的ないじめ」がトピックとして取り上げられています。「交際関係」がいじめ予防の文脈で語られるのは珍しいように感じました。今回分析した報告書のなかに、事例として件数が多かったのでしょうか?
件数が突出して多かったわけではありませんが、事例としては目立ちました。
たとえば、「AさんがBさんの元交際相手と仲良くしていることにBさんが気分を害し、Bさん及び複数の生徒がAさんと距離を置き、無視するようになった」みたいな事例ですね。
そういった、交際関係を発端としたいじめが存在することは、みなさん想像がつくのではないかと思います。
――学生時代によく見かけた気がします……。留意事項集に掲載されたということは、そうした交際関係に端を発するいじめは、重大事態につながる可能性が高いのでしょうか?
もちろん、先ほどの例のような交際関係に端を発するいじめから重大事態に至ってしまうこともあるでしょう。加えて交際関係は、一見すると一般的な「いじめ」と無関係に見えるにもかかわらず、「いじめ重大事態」に至ってしまうパターンもある。そういった意味でも注視が必要と言えます。
――どういう意味でしょう。
これは少しややこしいのですが、いじめの定義による問題です。
たとえば交際関係にある生徒同士が喧嘩別れする際に、相手を傷つける言葉を使ってしまい、言われた側が自殺未遂に至ったとしましょう。
これは社会通念上は、「いじめ」の結果だとは認識されないかもしれません。あくまで失恋などを理由とした自殺未遂だとみなされるはず。
しかし、法律に照らすと、これも「いじめ」だとみなされるのです。「いじめ防止対策推進法」において、いじめは以下のように定義されています。
いじめ防止対策推進法 第二条
この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。
どうでしょう。「一定の人的関係にある」児童生徒からの「心理的な影響を与える行為」によって、「心身の苦痛を感じている」という意味では、先の喧嘩別れのケースも「いじめ」に該当することがわかるのではないでしょうか。
――たしかに、こうして読んでみると「いじめ」に該当しますね。
もちろん「いじめ」か、そうでないかという定義自体は、対策を考えていくにあたって大事なものです。しかし、「いじめ」であるにしろ、そうでないにしろ、「交際関係」が子どもたちが辛い状況に陥ってしまうキッカケになりうることは事実ですし、それを把握しておくことは大事。
そうした意味も込めて、今回の留意事項集に掲載されていると考えていただければよいかと思います。
早期対応に必要なこと
――留意事項集には、こうした恋愛や交際に関するトラブルは、教員の認知や対応が遅れがちであると記載されていました。
そこには様々な理由がありますが、一つは交際関係などが、あくまで生徒たちの「プライベート」であり、学校が関与すべきではないとみなされる傾向があるからでしょう。
また年齢や世代によっては、教員が「生徒同士の交際は好ましくない」といった価値観を無意識に持っている場合もあります。そもそも交際していること自体を「けしからん!」と思ってしまっているパターンですね。そうした場合も、やはり対応が遅れてしまいます。
――そうした教員側の意識を更新したうえで、早期に対応する必要があるということですね。
はい。とはいえ教員個人の意識を更新したとしても、難しい部分があります。
たとえば「交際関係で困っていそうだな」と思って生徒に話を聞いたとして、そこで生徒から出てくるのは「振った」「振られた」という話だけではありません。
「あの人とあの人がセックスをした」「あの人に恋人を取られた」といった話題や、そこから派生したメンタルヘルスの話題などが出てくる。
しかし、教員はそうしたトピックのプロではありませんし、それらに対処しようとすると(ただでさえ忙しいのに)仕事も増えます。また、どうしても異性の生徒とこうした話題を交わすのは難しいという問題もあります。
教員が交際関係などに対する意識を更新するだけでは、解決や早期対応は難しいのです。
――では、どうすれば良いのでしょう。
まずは、仕組みを整えることが大切でしょう。もしこれらのトピックに対してスクールカウンセラーや養護教諭なども含めて対応する体制がまだ整っていないようであれば、それを整えるのが第一です。
生徒が直接そうした人に相談できたり、生徒が困っていそうな様子に気がついた担任などが連携できたりするような仕組みを整えてほしいと思います。
また、仮に交際関係の話はできなくても、「メンタルヘルスが悪化したことへの対応」と捉えることで、対応可能になるケースもあるでしょう。交際関係ばかりに注目しすぎず、「支援が必要な状態」という広い視点から捉えることも大切です。
予防には日常的な教育が不可欠
――留意事項集では、スクールカウンセラーや養護教諭なども含めた対応は「中長期的」に取り組む必要があると記載されていました。
これは交際関係の問題に限りませんが、「起こった問題に対応する」だけではダメだからです。
いじめが事後対応だけでなく「予防」が重要であるように、こうした交際関係などの問題も、日頃からの教育が重要。それが予防にもなる。そうした意味で「中長期的」な取り組みが重要なのです。
――たとえば、どのような教育が必要になるのでしょうか。
まず、相手を思いやることの必要性や、異性間のマナー、それに性教育なども重要になるでしょう。
アメリカなどでは、たとえば「デートDV」や、妊娠なども含めた性にまつわる予防教育が日本よりもしっかりと行われています。
一見すると「いじめ予防」とは別のトピックに見えるかもしれませんが、これらは全てつながっています。生徒だけでなく大人も含めて、こうしたトピックにしっかりと向き合っていくことが大切になるのではないかと思います。
参考文献
- こども家庭庁・文部科学省(2025)「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」
- こども家庭庁・文部科学省(2025)「いじめの重大化を防ぐための研修用事例集」
- いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)
- 文部科学省(2024)「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン 令和6年8月改訂版」
- 文部科学省(2024)「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン 令和6年8月改訂版」










